総説・解説等 - 野村 浩二
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「技術革新を促す政府の役割-グリーン・イノベーションに向け多様性ある技術政策の導入を」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2010年08月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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イノベーションの実現にはコスト負担が必要
漢から清朝に至る二千年にわたる中国陶磁の歴史は、基幹産業におけるイノベーションを色濃く反映している。興味深いのは、後世が前世の品質を単純に上回っていくような単線的な歴史ではない点だ。卓抜した作品群が現在に遺された背景には膨大な数の失敗作や試作品があったことを、後世に発見された窯跡が物語っている。イノベーションの実現のためには研究開発というコスト負担が必要であったことは、現在と何ら変わらない。またイノベーションが実現した背景には、陶磁器の品質が適切に評価され開発のための費用負担が社会的に受容されるような、安定した治世が不可欠であったに違いない。社会が必要とするイノベーションを推進するために政府は何ができるだろうか。
技術開発での市場の失敗と政府の失敗
技術開発へと政府が介入する根拠は伝統的に次のように考えられている。技術開発にはコスト負担が必要だが成果は不確実であり、そのリスクを一企業で負うことはできないかもしれない。また運よく成功しても成果である技術知識が容易に模倣されスピルオーバーしてしまえば、企業の私的利益は社会全体が受ける利益よりも小さくなる。そのとき個々の企業による研究開発費の合計は社会的に望ましい水準を下回り、そこに政府の役割がある。
しかし研究開発の不確実性の前には政府も失敗する。現在その萌芽を見るどの分野を支援すべきか、政府が望ましい研究開発の投資先を知っていると仮定することは市場メカニズムへの信頼以上に頼りないかもしれない。政府による対策が裏目に出た事例は多く、家電エコポイント制度もその一つだ。制度導入のわずか10カ月後に登場した新製品では年間消費電力が40〜48%も改善されており、環境・エネルギー政策の観点からは補助金を出してまで普及を促進するのではなく、もう少しの間購入を控えるような情報提供を行うべきであった。
不確実性のもとでの技術政策
大気中からCO2を回収する装置のコストは現在1t当たり200ドル程度だが、大量生産されるようになれば30ドル程度にまで低下するという研究がある。一方、日本が単独に国内対策として90年比25%削減を実施するとした場合、CO2 1t当たりおよそ500ドルもの限界削減費用が必要と多くのモデルで推計されている。温暖化対策を目的とする限り、極端な省エネ・新エネ技術の開発へと突き進むことの合理性はさまざまな対策のコスト比較から明らかに疑問だ。
エネルギー・環境技術開発の促進、とくにその基礎研究における政府の役割は大きい。しかし求められるのは、一国のみの規制強化によってコストレスにイノベーションが誘発される可能性に淡い期待を抱くことでもなく、太陽光発電など一部の分野へと大きく賭けに出ることでもない。偏った投資をしてしまえば将来の資源配分の変更に大きな障害となる。必要なのはまず国際的に調和をもって受け入れる適切な炭素排出の社会的費用の水準を企業に提示し、多様な技術開発の可能性の芽を事前に摘み取ってしまうことのないような技術政策をデザインすることだ。特定技術分野への事前的な直接・間接の補助金政策ではなく、分野を絞らず事後的に得られる報奨金のような経済的インセンティブを付与する制度の構築がひとつの技術政策として考えられる。温暖化対策では途上国や後世への技術のスピルオーバーこそが地球益であり、世界全体で多様なイノベーションを導く環境づくりが求められている。 -
「環境と経済、両立への現実的な狭い道-環境プラント輸出は海外クレジットの負担を緩和するか」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2010年07月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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成長戦略からみた環境対策
菅内閣の「新成長戦略」では「グリーン・イノベーション」が第1に位置付けられているが、鳩山前内閣の成長戦略と内容は一言一句同じである。グリーン・イノベーションの理解にはバランス感覚が必要で、それは2020年といった短中期ではなく長期の視点に対応している。競争力戦略や経済成長という軸でみれば、温暖化対策が成長に貢献する要素はあるとはいえ影響度のあまり大きくはない一部に過ぎない。米国政府の報告書では生産性向上・労働政策・エネルギー温暖化対策がそれぞれ別建ての章で並列して扱われており、競争力戦略として主として論じられているのは基礎研究や研究開発への投資の重要性であり、そこにグリーン・イノベーションの文字が躍ることはない。
進行する海外生産シフト
民主党政権は国内対策による25%削減でもGDPは増加するという分析を国民に提示したが、協調が必要なのかそうでなくとも単独でプラスなのか、国民は混乱せざるをえない。こうした不安定なメッセージは現実に影響を与え始めており、鉄鋼メーカーに続き自動車メーカーも海外への生産シフトを進めている。日本自動車工業会はその要因として高い法人税率・労働者派遣法見直しの動き・CO2の25%削減の3点を挙げている。最大の懸念は国内の雇用喪失だが、政府が示した雇用創出効果の試算は対策に必要な設備を国内で生産すると仮定して積み上げただけであり、25%国内削減に伴う雇用喪失は考慮の外となっている。
環境プラント輸出による負担緩和
仙谷内閣官房長官や直嶋経済産業大臣がアジア諸国への原子力発電や高効率石炭火力発電など環境プラント輸出へのトップセールスに力を注いでいるのは、温暖化対策への積極的な貢献と持続的な成長との両立を可能にする現実的な狭き道の模索であろう。
KEOモデルによる試算では、国際価格50ドルとして90年比25%削減を国内10%削減+海外クレジット購入15%で実現するケース(1)において、GDPロスは1.3%弱、クレジット購入負担はおよそ1兆円となる。環境プラント輸出が1.3兆円ほどに達するところでは海外クレジット購入のための国内負担を相殺し、国内10%削減のみのGDPロスと同等な水準となる。国内削減を90年比15%に増加し残り10%を海外クレジット購入で実現するケース(2)では、GDPロスは2.2%となり、0.9兆円ほどの環境プラント輸出増加で海外クレジット購入のための負担はほぼ相殺される。しかし環境プラント輸出を2.0兆円まで増加させてもGDPロスは2%を上回っており、既にエネルギー効率を高める努力をしてきた日本経済にとって現実的ではないだろう。
模索されるべき現実的な両立
国内で政策的に需要を創出しようとしても持続しない。一国のみの規制強化が広範なイノベーションを促進するなどは望み薄であり、新成長戦略において求められるのは逆転の発想ではなく冷静なそろばん勘定だ。環境と経済の両立においてイノベーションの促進は大きなカギだが、より長期の視点からの政策手段を考えるべきである。2020年という短中期では、成長著しいアジア諸国の経済発展を支えながら低炭素化へと貢献することで、地球温暖化問題への日本の積極的な参加と同時に国内で経済的に受け入れ可能な負担の範囲を探るべきではないだろうか。 -
「CO2削減目標:影響の検証-規制の国際調和カギに」 (経済教室)
野村浩二
『日本経済新聞』 (日本経済新聞社) 2010年05月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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「温暖化対策」(オピニオン 金曜討論)
野村浩二
『産経新聞』 (産経新聞社) 2010年05月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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「蜃気楼へのロードマップ-中期目標の政策評価プロセスはなぜ退歩したのか?」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2010年05月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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第八回「蜃気楼へのロードマップ」要約
国際協調なき一国突出の危険性
COP15で拘束力のある国際合意に至らなかったことを受け、今後の排出権価格は弱含みが予想される。しかし対策がどのような政策手段によるとしても、温室効果ガスの排出に対して国際的に調和のとれた適切な価格付けは不可欠だ。一国が突出した国内対策を実施することは当該国のためにならないどころか、世界の排出量削減にもならない。市場構造をより現実的にモデル化すればカーボン・リーケージ率は50〜130%にもなるという研究もあり、先進工業国における排出量削減が世界全体としてむしろ排出量を「増加」させる危惧すら指摘されている。
政策評価プロセスの「起承転結」
日本の中期目標の政策評価は、2008年末から政権交代を挟む1年半に検討の場を変えて3度おこなわれるという稀有な事例となった。「起」となる麻生政権下のワーキンググループ(WG)では内閣官房の官僚と各研究機関の研究者間で非公式な集中的議論が24回重ねられた。前提条件をそろえ削減目標の水準や外生条件を変えながらモデルの予測値を調べるという相互チェックが機能しており、議論は出身省庁を感じさせないほどに対策による影響を探るという一点に向けられていた。
失われた調整機能
「承」となるタスクフォースでは、研究機関による事前会合はほとんどないまま追加的なシナリオが突然に提示された。参加機関はWG時と同じで試算結果にほとんど変化がなかったが、例外は国立環境研究所の経済モデルであった。WGでは9.1%下落するとされていた実質可処分所得の減少がタスクフォースでは3.4%減へ、実質GDPの減少もWGの6.0%からタスクフォースでは3.2%へと大幅に改訂されているが、いずれも根拠は明確ではない。研究機関間の事前議論が全くないまま公開の場で試算値が示され、政治のターゲットに縛られることで官僚の調整機能は失われた。これは政治主導の負の側面である。
閉ざされた議論への退歩
「転」として検討の場は環境省へと移り、ロードマップ検討会が開催された。大阪大学の伴教授のモデルによってWGやタスクフォースとは大きく異なる経済的影響が示されたが、その試算は最終回の検討会で突然に提出され議論はごくわずかであった。多様な研究者による相互批判が不可欠であるのに、それは逆に閉ざされてしまった。
ロードマップのwin-winシナリオには2つの課題がある。第一に、国際協調なきままの日本単独の突出した目標による価格競争力への負の影響が適切に描写されていない可能性だ。第二に、追加的なイノベーションを実現するための費用が必要とされず実証的根拠もないまま外生的に与えられているだけという点だ。コストレスなエネルギー効率の上昇を「仮定」すれば経済的影響が小さくて済むのは当然であり、それは同義反復に過ぎない。
win-winを描くモデルの正しい理解
IPCC第4次評価報告書で紹介されている温暖化対策が世界経済成長にプラスの効果を持つというモデルは、一国だけの突出した目標ではなく国際的に協調ある温暖化対策を評価したものだ。IMCPの比較研究自体も、win-winを描くモデルは楽観的な技術進歩の「可能性」を描くことを目的としたものであり、現実の影響度を測るには極端な描写に過ぎると評価対象から外している。国際協調なきままの突出した一国の削減目標が環境と経済のwin-winを実現するという環境省ロードマップの姿には、大きな疑問符が付いたままである。 -
「求められる政策手段の効率性-固定価格買い取り制度の拡充は日本経済に何をもたらすか」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2010年04月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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第七回「求められる政策手段の効率性」要約
環境と経済の両立は見い出されたか
小沢環境大臣が示した「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ」試案では、国内対策25%削減を実行しても2020年のGDP下落はわずか0.4%にとどまり、技術進歩が実現すればむしろ0.4%増加するという経済評価が示された。しかしタスクフォースでの議論を集約すれば、国内対策による90年比25%削減は日本のGDPに3.1〜5.6%の下落をもたらすほどの難しいターゲットであり、負担軽減のためには海外クレジット購入とのバランス検討が有効である。研究者間の相互チェックのもとでは安易な解はないことが明らかになった。これ自体はひとつの成果といえる。
ロードマップで提示された経済評価が環境と経済の両立する解答を与えているかは疑わしい。具体性を欠いたまま楽観的な技術進歩を仮定し、日本の需要増加は国内生産のみを誘発するとし、省エネ投資はエネルギー消費節約と同時に生産能力も拡大させるような仮定のもとで評価しているだけのようである。
間接的な補助金政策の復権
タスクフォースにおける90年比25%削減の経済的影響(3.1〜5.6%のGDPロス)は、もっとも効率的な手段による削減を想定したものだ。現実の負担は採用される政策手段に大きく依存し、エコポイントやFIT政策など必ずしも効率的な政策が採用されるわけではない。
現在、太陽光の発電コストは1kWh当たり48円であり、LNG火力発電(7.5円)の6.4倍、家庭用電力販売価格(24円)の2倍にあたる。FIT政策はこうした価格差を考慮しながら再生可能エネルギーによる電力を高値で買い取り、その費用を広く電力消費者全体に負担させる仕組みだ。電力消費者にとって追加負担は電力料金に含まれて実感が薄く将来に先送りされ、一部の企業には直接の恩恵を与えるため積極的な推進派も生まれる。政府は補助金捻出も増税の説明も不要という調整コストの低い政策だが、実質的には間接的な補助金政策であり、その復権には警戒が必要だ。
フィード・イン・タリフ政策の非効率性
未来資源研究所のFischer氏とNewell氏による研究では、温暖化対策として取りうる6つの政策手段を比較評価している。もっとも効率的な「炭素への直接的な価格付け」を経済厚生ロス1.0として基準化すると、再生可能エネルギーの生産への補助金政策では2.4倍、FIT政策に相当する再生可能エネルギーの利用割合基準では2.0倍のロスをもたらす。FIT政策は電力価格の上昇と需要抑制に寄与する点で補助金政策よりは効率的だが、炭素税と比べれば温暖化対策として効率の悪い政策手段だ。日本では太陽光発電への傾斜がさらに非効率性を拡大させる。
ドイツの経験が示す将来負担
ドイツのFIT政策によって電力消費者が負う長期債務は太陽光発電のため6.8兆円、風力発電のため2.6兆円にのぼる。ライン・ヴェストファーレン経済研究所の報告書は、2005年のEUETS創設以来、FIT政策による再生可能エネルギー支援はもはや温室効果ガスの追加的な削減にすら繋がっていないと指摘する。ドイツの電力部門での削減はEUETSの枠組みの中で他国の削減を緩和させるだけとなり、政策間のコーディネーションを欠くことで単にコストの高い政策を導入しただけに終わっている。また再生可能エネルギー分野での雇用創出効果は認められるものの、長期的にみると雇用誘発はマイナスになるという。将来の雇用を前倒しして現在の一時的な雇用を創出しただけに過ぎないのである。
日本での過剰投資への警戒
FIT政策は将来に負担を先送りしながら現在の投資需要を喚起し、将来の雇用を犠牲にしながら現在の一時的な雇用を創出する。見かけ上、環境と経済が両立するwin-winの関係を与えるように錯覚させるのである。制度を設計しながらも、できるだけ早く「やめる」仕組み作りが重要であるという感覚が、現在の政府に残されているだろうか。安易な期待を膨張させ過剰な投資を導くことのないよう、バランス感覚を持った政策運営が求められる。 -
「GDP6%マイナスの衝撃」
野村浩二
『エコノミスト』 (毎日新聞社) 2010年03月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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「25%削減の経済負担」
野村浩二
『経済セミナー』 (日本評論社) 2010年02月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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「環境に過大な期待を寄せる新成長戦略-温暖化対策と交差する成長戦略:太陽電池で成長を牽引できるか?」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2010年01月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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環境エネルギー政策と成長戦略の交差
2009年初め、鉄鋼大手4社が2020年までに海外生産能力を現在の約4倍に引き上げると発表した。国内市場の成熟や円高傾向に加え、鳩山政権の1990年比25%削減という中期目標もその決断の一要因であっただろう。2009年末に閣議決定された「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」が成長分野の第一に掲げられた。しかし重要なのは、再生可能エネルギーへの資源配分の傾斜を環境・エネルギー政策の手段としてではなく、2020年に向けた成長戦略として位置づけていた点だ。こうした成長戦略としての期待の膨張は、25%削減の前提条件であった「主要国の意欲的な目標の合意」を希薄化させてしまっているようにすら感じられる。
世界で拡大する太陽光発電市場
温暖化タスクフォースの検討では、1990年比25%削減を国内対策のみで実施するとき日本の実質GDPは3.1〜5.6%下落すると推計されている。そこでは国内での再生可能エネルギー拡大は考慮されているが、世界的な需要拡大による日本の輸出への効果は組み込まれていない。IEAの「World Energy Outlook 2009」によれば、世界の太陽光発電能力は2007年の9GWから2030年には244GWまで拡大し、450ppm安定化シナリオではさらに403GWへと拡張する見込みだ。現在、日本の太陽電池出荷量の79%が輸出に依存しており、世界市場の拡大が日本の輸出を誘発するとすれば、どれほどのプラス効果をもたらすか。
日本経済へのインパクト試算
一般均衡モデルによる試算では、現状の輸出シェアを維持する楽観的なケース(1)において、2020年の実質GDP押し上げ効果は0.30〜0.39%にとどまる。より現実的なケースとして、DRAMでの日本企業の経験(2002年には世界シェアが78%から12%へと激減)と同程度のシェア低下を想定したケース(2)では、押し上げ効果は2020年で0.20〜0.26%まで低下する。さらに年率10%ほどの太陽電池価格低下を考慮した名目値では、現状の輸出額の2倍程度に過ぎない。いかに積極的な世界需要拡大シナリオのもとで市場シェアを維持できたとしても、太陽電池輸出によるGDP押し上げ効果は、国内対策による25%削減のGDPロス(3.1〜5.6%)を相殺するには遠く及ばない。
ドイツのフィード・イン・タリフ政策の教訓
FIT政策の成功事例として挙げられるドイツだが、経済成長への効果は別の話だ。2007年に太陽電池メーカーのトップに躍り出たQセルズは、2009年に累積売上高が前期比41%減という大幅赤字に転落し、株価はピーク比90%近く下落してバブルがはじけた。太陽電池の生産は相対的に高いドイツの賃金を支えられず、同社は早くもマレーシアでの工場建設へと舵を切っていた。ドイツ経済全体としても、2009年の実質GDP成長率は四半期ごとに前年同期比マイナス6.7%、5.8%、4.8%と歴史的な低迷を記録しており、フランスや震源地の米国のおよそ2倍の落ち込みとなっている。積極的なグリーン投資が新たな競争力と成長のパスを提供するグリーン成長を、現在のドイツ経済が謳歌しているわけではないことは明らかだ。
過大な期待がもたらす過剰投資への警戒
日本では再生可能エネルギー、とくに太陽光発電へと資源配分の傾斜が始まりつつある。エネルギーセキュリティ・温暖化対策・成長戦略という異なる政策目標からの視線が重なり、過大な期待が過剰な投資を導く懸念は大きい。将来世代が享受できる太陽光発電からの便益を加算しても、高い投資コストを反映した償却費用を下回ってしまう恐れがある。成長戦略としても温暖化対策としても、太陽光発電ほどに高価ではない対策は数多い。日本の再生可能エネルギーへの投資をどこまで進めるべきか、便益と費用の冷静な評価が求められている。 -
「国民負担の理解と選択のための視点」
野村浩二
福井俊彦編『地球温暖化対策中期目標の解説』 (ぎょうせい) 2009年12月
記事・総説・解説・論説等(その他), 単著
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「マイナス25%の再試算結果の評価」
野村浩二
エネルギーフォーラム (エネルギーフォーラム社) 2009年12月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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「ポーター仮説の呪縛からの解放-野心的な温暖化対策は国内企業の競争力を高めるのか?」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2009年12月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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25%削減をめぐる対立する二つの見解
鳩山政権の1990年比25%削減という野心的な目標に対し、産業界はコスト増加と競争力低下を懸念し、エネルギー経済分野の分析者は工場の海外移転による国内雇用の喪失を危惧していた。一方でこれとは全く対立する見解もあった。野心的な国内目標の設定が、リーディング・セクターの育成や技術開発の促進を通じて競争力ある産業構造への変革をもたらし、新たな雇用創出も可能にするという主張だ。重要なのは、この見解が特定企業への恩恵にとどまらず、経済全体としてむしろプラスであると期待していた点である。
この対立は経済学的な考え方の相違に基づいている。GHG排出規制では企業はより安価な代替的生産手段を選ぶことになるが、もしその手段が最初から安価であれば始めから選択されていたはずであり、規制はコスト増をもたらして競争力を減退させる。これが伝統的な考え方だ。失業や遊休設備が存在する現実の経済では需要拡大が短期的に経済成長を牽引するケインズ効果もあるが、国内対策25%削減のような野心的な制約のもとではそれは部分的な相殺に過ぎない。
ポーター仮説とは何か
1990年代初め、ハーバード大学のポーター教授は「厳格な環境規制の強化がむしろ当該国の企業競争力を高める」と主張した。規制の強化が企業内部の非効率性に光を当て、効率改善を可能とするイノベーションを誘発するからだというのがその論拠だ。この主張は「ポーター仮説」として知られるようになった。
仮説が成立するような状況が存在しうることは感覚的に理解できる。企業が低廉化した新技術の存在を知らなかったり、合理的でない行動をしているとすれば、規制強化はwin-winを実現するかもしれない。しかし経済学的には、現実の経済に「宝の山」が手付かずのまま放置されていると期待するよりは、そこにはリスクや取引費用が隠れているだけと見る方が自然だ。太陽光発電設備の購入でも、将来の転居時における残存価値の未評価や将来の価格下落への期待など、補助金があってもなお購入を躊躇させる理由は数多く存在する。
ポーター仮説への懐疑と実証的検証
ポーター仮説に対しては、理論的・実証的な経済分析によって国内外で多くの批判がある。スウェーデンのBrännlund教授らによる実証分析では、1990年から2004年の企業レベルのデータにおいて、ゴム・プラスチック業以外のすべての部門でCO2課税が生産性上昇を通じてコストを低下させた証拠は見出せないとしてポーター仮説を棄却している。高い炭素税はエネルギー効率を向上させるが、資本生産性の低下などがその効果を打ち消してしまうのだ。世界で最初に明示的な炭素税を導入したスウェーデンの長期データでも、規制強化が製造業の全要素生産性を上昇させる証拠は見出されなかった。同論文の結論は「コストフリーな環境政策はたぶんないだろう」というものだ。
野心的な中期目標を掲げない米国
COP15において米国は2005年比17%削減(1990年比ではマイナス3%程度)を表明した。オバマ大統領はグリーン・ニューディールによる雇用創出を雄弁に語ってきたが、その米国がより野心的な中期目標を掲げないのは、短期的な景気浮揚策と国民負担を重視した現実的な中期目標とを十分に識別しているからではないだろうか。
Brännlund教授らの結論のひとつは「環境政策のコスト計算においてポーター効果を事前に考慮すべきではない」というものだ。事後的に存在したとしてもそれは法則ではなく例外であり、政策構築プロセスにおいて事前に競争力向上効果を織り込むことは危険である。温暖化対策の推進においても、実証分析に基づくポーター仮説への批判から目をそむけるべきではない。 -
「動き出す民主党マニフェスト-負担軽減考えた制度設計が課題」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2009年09月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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第四回「動き出す民主党マニフェスト」要約
京都議定書からの教訓
2009年9月、民主党の鳩山由紀夫代表は2020年における温室効果ガス排出量を1990年比25%削減とする目標を表明した。民主党マニフェストにはキャップ・アンド・トレード方式による国内排出量取引市場の創設や地球温暖化対策税の導入も盛り込まれており、一方では地方財政や特定産業への過度な負担とならないよう留意した制度設計を行うとしている。
この目標のインパクトを理解するために、15年ほど時計の針を戻してみたい。京都議定書での1990年比マイナス6%という目標が設定された当時、経済モデルによるシミュレーションはその達成が相当に困難であることを示していた。原子力発電所の増設がほとんど実現不可能になっていく中で、目標達成は厳しいというのがモデルの結論であった。社会が目標を共有すれば想定外の技術進歩が起きるのではという期待もあったが、現実には2005年時点でプラス7.8%となった。景気後退による経済成長率の低下や原油価格高騰という想定外の要因があったにもかかわらず、目標達成は困難だったのである。
国内対策としての25%削減の経済的影響
麻生前首相の中期目標「1990年比マイナス8%」でさえ国内対策としての実現は相当に困難であることは明白だった。民主党の目標はさらに大胆な25%削減である。これを国内対策のみで実施しようとした場合、2020年における限界削減費用は1tCO2あたり6万〜10万円と試算される。欧米が受け入れようとしている限界削減費用がせいぜい数千円であることを考えれば、まず持続不可能な炭素の内外価格差である。実質GDPは3.2〜6.6%の低下が見込まれ、GDPの1%低下は雇用者報酬の100万人分に相応することから、国内対策による25%削減は300万〜600万人の雇用者の所得機会を消失させることになる。家計の実質可処分所得の下落は1世帯あたり年額22万〜77万円と幅があり、KEOモデルによる試算では77万円である。
海外クレジット利用を組み合わせた場合の負担
国内対策による25%削減は現実的な政策ではないが、国内対策と海外クレジット利用を組み合わせれば費用負担は大きく軽減される。KEOモデルによる試算では、炭素価格88ドルを上限に国内対策を実施し、残りを海外クレジット購入で賄うシナリオ(b-2)では、削減量の83%を海外から購入するために2.9兆円の負担を必要とするが、それを含めても実質GDPの低下は0.5%にとどまる。家計負担は1世帯あたり年額12.7万円となり、麻生前首相の中期目標を国内対策のみで達成する場合の17.2万円を下回る。
さらに炭素価格を30ドルとした場合(b-3)では、実質GDPの減少は0.2%と限定的となり、家計の負担額も年間3.2万円まで低下する。これは90年比25%削減を実現できる、家計負担の最も少ない方法であろう。果たして3.5億tCO2もの海外クレジットの購入が可能か、有効なモニタリングができるかなど検討すべき課題も多いが、米国のワックスマン・マーキー法案では15ドル程度で10億tCO2を超える海外オフセットが想定されている。
冷静な国益の議論を
多額の国富流出を懸念する声もあるが、国内対策による負担でも競争力低下による輸出減少や所得低下として潜在的に国富を失うという意味では相違はない。先進国が同様の負担を覚悟し途上国を巻き込むことができれば、化石エネルギーの需要拡大を抑え原油価格の安定化にも寄与するだろう。現在、日本の原油輸入額は年間16兆円にもなる。もし10%の価格低下があれば、排出枠の1兆円の購入にはお釣りが来る。民主党案の提示を受け、日本は今一度、国益を冷静に見つめるべき時にある。海外排出枠の購入に対する国民の理解を得るためにも、改めて国民に問い直される必要があるだろう。 -
「中期目標の国内対策と国民負担」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2009年08月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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第三回「中期目標の国内対策と国民負担」要約
「国内対策」と「国民負担」は切り離して考えるべき
日本経済は依然として国民所得の95%を国内生産に依存している。この事実を軽視して国内生産をないがしろにすれば、いずれより深刻な停滞を招くことになる。政府が検討した6つの選択肢のうち、国内対策のあり方を考えるベンチマークとなるのは「先進国全体として1990年比25%削減」とする第2シナリオであった。
温暖化防止という国際的な公益を実現するための負担のあり方を考える際、効率と公正を切り離したうえで2段階のアプローチが有益である。第一段階として、世界全体の排出目標を設定したうえで炭素の国際価格を一律に設定することで、産業の競争条件を国際的に等しく保ちながら削減の総費用を世界で最小化できる。第二段階として、削減費用の負担を各国で再配分する。先進国がコストを負担してでも途上国での削減を推進することが望ましく、なぜなら先進国内でさらなる対策を行うよりもはるかにコスト負担を少なくできるからである。
海外クレジット利用によるマクロ経済への影響
中期目標検討委員会において第2シナリオの試算を行った地球環境産業技術研究機構(RITE)は、必要な国際炭素価格をCO2換算1tあたり88ドルと算定し、日本の国内対策として「2005年比マイナス6%」の実施が必要とした。一方、国立環境研究所は166ドル・「同マイナス10%」と、2倍近くの乖離が生じ、第2シナリオは世論調査の段階で姿を消してしまった。
KEOモデルによる試算では、日本が国内対策を炭素価格88ドルまでとし、それを上回る削減量は海外クレジット購入(1tあたり88ドル)で達成するシナリオを検討した。その結果、クレジット購入に1.0兆円の負担を要するものの、実質GDPと家計消費支出の下落率はそれぞれ0.3%と1.2%にとどまり、国内対策のみの場合(0.6%・2.3%)と比べてマクロ経済への負担はおよそ半分に低下する。
海外クレジット利用によって家計負担は大幅に減少
KEOモデルでは、中期目標を国内対策のみで達成する場合の家計負担は1世帯あたり年額17.2万円(光熱費3.3万円・ガソリン代1.5万円の負担増を含む)と試算される。海外クレジット利用を組み合わせた場合、家計の負担総額は9.8万円減少し、偶然にも政府の公表値である7.6万円と一致する。そのうち海外クレジット購入のための直接・間接負担は2.3万円(負担総額の約30%)であり、残る5.3万円が国内対策による家計負担となる。
国民に示されるべきだったもう一つの選択肢
中期目標を国内対策のみで達成するか、海外クレジット購入を組み合わせて達成するかは、家計の負担において決定的な差をもたらす。一国全体では0.9兆円もの海外への所得移転を伴うとしても、家計の負担が半分以下になるのであれば、国民は後者を選んでいたかもしれない。政府は世論調査において「真水」の国内対策のみではなく、両論を併記した選択肢を国民に与えるべきであった。国際交渉の戦略的配慮は、国民による負担の理解に先行するものではない。
2020年に現実がどうなるかといえば、企業は国際的な炭素価格を見ながら、それを超えるコストの対策を自発的に行うことを躊躇するだろう。結果として中期目標の達成は海外クレジットの購入によって賄われる可能性が高く、それは京都議定書での経験の反復になる。しかし国民負担の観点からみれば、その帰結は「真水」の計画よりもずっと負担の小さいものになる。むしろ注意すべきは政府による非効率な補助金政策や公共投資の拡大であり、そうした対策費用はモデルの試算値をはるかに超えてしまうだろう。 -
「中期目標による負担額試算は妥当か」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2009年07月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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第二回「中期目標による負担額試算は妥当か」要約
麻生首相の中期目標発表とその意味
2009年6月10日、麻生太郎首相は日本のGHG中期目標を「2005年比マイナス15%(1990年比マイナス8%)」と発表した。政府内で調整してきた「1990年比マイナス7%」にさらに1%の削減努力を上乗せしたものだ。首相はこの追加1%のために10兆円が必要と強調したが、これは削減コストが1tあたり10万円を超えることを意味する。当時、欧州の排出権市場価格は日本円で2000円を下回っており、日本は海外比50倍以上のコストを要する国内対策へ踏み出したことになる。排出権はすでに貿易財であり、コストに耐えられない製造業が生産を海外へシフトさせる可能性を考えれば、この50倍もの内外価格差を長期にわたって維持することは事実上不可能である。
政府の家計負担試算への批判と反論
中期目標と同時に家計負担額を提示したことは評価に値する。国民が政策の方向性を選択するために不可欠な情報だからだ。しかしその後、「試算はネガティブな側面のみを計算している」「産業構造が不変と仮定して負担を意図的に大きく見積もっている」といった批判が相次いだ。これらは全くの誤解である。経済モデルは環境対策のマイナス面だけを取り出して評価することはほぼ不可能であり、省エネ投資の拡大や価格競争力の向上といったプラス効果も当然に織り込まれている。負担の議論を「脅し」と切り捨てるべきではなく、むしろ負担を示さない議論のほうがはるかに危険である。
家計負担の解釈における三つの混乱
政府の負担額算定には複数の混乱がある。第一に、光熱費のみが示されてガソリン代が含まれていない点だ。代替交通手段の少ない地方ではガソリン代の負担増こそが深刻であり、KEOモデルの試算では年額1.8万円ほどの負担増となる。
第二は「実質所得の変化」の意味に関する混乱だ。実質可処分所得の減少は、名目所得・光熱費・ガソリン代・エネルギー消費量・その他消費財価格の変化という5つの効果に分解できる。政府が「収入の減少」と「光熱費の増加」を単純に加算したことは二重計上に等しく、実質可処分所得の減少のみが家計負担の本体に相応する。
第三は、モデルごとに可処分所得の定義が異なる点だ。特に日本経済研究センターのモデルは、炭素削減コストをすべて家計に還流した後の姿を可処分所得としているため、実際の負担感とかけ離れた楽観的な数値となっている。世論調査ではこの最小推計値が採用されていた。KEOモデルによる試算では家計負担は年額17.2万円と、政府公表値の7.6万円を大きく上回る。
米国との比較と「真水」議論の問題点
米国のリーバーマン・ウォーナー法案の評価では、日本と同程度の削減目標を国内対策のみで実施した場合、米国でも1世帯あたり年額10万円超の家計負担が試算されている。しかし国内外クレジットの利用上限を外すと、米国の家計負担は年額約2万円程度にまで縮小する。日本でも同様であり、国内対策のみでは年額17.2万円の負担が、海外での削減を活用すれば10分の1以下になる可能性がある。
最も問題なのは、政府の世論調査において「国内対策のみ(真水)」という選択肢しか国民に示されなかった点だ。海外クレジットを購入するというもう一つの重要な選択肢が提示されなかったことは、政策議論の透明性として大きな欠落であり、国民が負担の全体像を理解した上で選択できる機会が失われた。 -
「温暖化対策がもたらす日本経済へのインパクト」(日経BP ECOマネジメント)
野村浩二
(日経BP) 2009年06月
記事・総説・解説・論説等(商業誌、新聞、ウェブメディア), 単著
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背景と政策の枠組み
世界的な「グリーン・ニューディール」の潮流の中、環境危機と経済危機を同時に克服しようとする気運が高まっていた。日本でも2050年までに温室効果ガス(GHG)を現状比60〜80%削減する「長期目標」が掲げられ、その通過点となる中期目標の設定が政府内で議論されていた。政府は1990年比プラス4%からマイナス25%まで6つの選択肢を用意し、国立環境研究所・日本経済研究センター・KEOモデルなど複数の研究機関に経済的影響の分析を委託した。
経済モデルが示す厳しい試算結果
各機関の分析が示したストーリーは共通している。CO2削減を強化するほど、温室効果ガスを追加的に1単位削減するコスト(限界削減費用)が逓増し、エネルギー価格が上昇する。産業部門では省エネ投資が誘発され、家計では省エネ機器への買い替えが促進されるため、需要拡大というプラス効果はある。しかし一方で、生産コストの上昇と輸出競争力の低下が産業の生産水準を押し下げ、所得の減少と家計消費の後退を招く。総合的には経済へのマイナスの影響が避けられないというのが、各モデルに共通する結論だった。
具体的な数字としては、2020年の実質GDPが「最大導入ケース(1990年比マイナス7%)」でマイナス0.5%、「1990年比マイナス15%」でマイナス2.1%、「1990年比マイナス25%」でマイナス5.6%と試算された。失業率はそれぞれ約0.3%、0.8%、1.9ポイントの悪化が見込まれ、家計の実質可処分所得は年間15万円(月1.2万円)から最大77万円(月6.4万円)もの減少という厳しい未来図が描かれた。CO2削減を強化すればするほど限界削減費用は増大し、エネルギーを大量に消費する業種への打撃は大きく、雇用や国民所得にも深刻な影響が及ぶ構図である。
「新産業創出」への期待の限界
こうした試算に対し、「環境対策から生まれる新産業の発展が織り込まれていないのではないか」という批判もあった。確かに、既存技術の普及とその生産誘発効果はモデルに組み込まれているが、想像もつかない全く新しい産業は反映されていない。しかし著者はこれに慎重な見方を示す。過去の歴史を振り返っても、わずか10年という短いスパンで開発から生産・量産化まで進み、経済全体に多大な影響を与えるほどの市場を築いた新産業の例はほとんど存在しない。現在から11年後の2020年という中期の時間軸においては、全く未知の新産業が突如として確立される可能性は極めて低く、グリーン・ニューディールに多大な期待を抱くことは難しいと結論づけている。
モデル間の差異と共通の底線
各機関のモデルは構造や前提条件が異なることから、項目によっては分析結果に差異が生じた。楽観的な見解を示した機関もある。しかし重要なのは、いずれのモデルも「経済に無視しえないマイナスの影響を与える」という一点では一致していることだ。また、2020年における限界削減費用については、技術モデルと経済モデルの間で結果が1.5倍程度の範囲に収まっており、ある種の整合性が確認された。
根拠に基づく政治決断への期待
かつて京都議定書を締結した際、日本はマイナス6%という削減目標を、コスト評価の十分な分析なしに引き受けてしまった。欧州が8%、米国が7%なら日本は6%といった具合に、実現可能性の根拠や国民負担への意識が希薄なまま数字だけを受け取った形だった。その結果、2007年度の排出量はプラス9%と目標を大きく超過した。今回、複数の研究機関が短期間のうちに集中的なモデル分析を行ったことは、「エビデンス・ベースド・ポリシー(根拠に基づく政策)」の実践として高く評価される。関係者によれば、政権交代の可能性も視野に「合理的な根拠のあるストーリーを描いておかなければならない」という必要性から、このような手間のかかる分析プロセスが設けられたという。きっかけがいかなるものであれ、モデル分析を通じて環境対策コストへの認識が政治家たちに培われたことは、非常に大きな意味を持つ取り組みであったと著者は評価している。 -
"Think sustainable development" (Reading Productivity and Economic Trends)
Eunice Lau and Koji Nomura
APO News (Asian Productivity Organization) 2008年12月
記事・総説・解説・論説等(その他), 共著
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Asia has been a fast-growing region. During 2000–2005, the Asian economy (including PR China) grew at 6.0% on average per year, compared with 2.5% in the USA and 1.6% in the EU15. Within the region, the performance was dominated by PR China, which achieved spectacular growth of 8.3% and 9.1% on average per annum in the periods of 1995–2000 and 2000–2005, respectively. Together with its size, it contributed to over 50% of the region's growth in both periods (see the accompanying chart). The pressure that the region's fast growth has put on the world's resources and the environment is well documented. Is this fast pace of growth sustainable?
Sustainability is the question of our ability to maintain the current level of well-being in the future. Currently, conventional economic statistics are simply inadequate to illuminate the issue, and GDP as a welfare measure is questionable. GDP is fundamentally an aggregate measure of production within a country. Key factors that have significant bearing on individual well-being, such as income inequality, household disposable income, environmental degradation, and changes in wealth, are omitted. The gap between our welfare concerns today and what we are measuring is so sizable that GDP measures alone are deemed inappropriate when sustainable development is considered. Currently, the Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progress, set up by the French President, attempts to find how the inadequacies of GDP measures can be feasibly addressed (see http://www.stiglitz-sen-fitoussi.fr).
Among others, GDP net of depreciation has been put forward as a better welfare measure than GDP because allowances set aside for replenishing the capital stock are not available for consumption and in turn do not contribute to the current level of well-being. The same concept is useful in thinking sustainability, with capital stock extended to include natural resources, physical capital, and human and social capital. The World Bank operationalizes the concept of "net adjusted savings" (NAS) as net saving (i.e., GDP minus consumption minus depreciation) plus education expenditures minus the consumption of natural resources and the monetary evaluations of damages resulting from CO2 emissions. Based on International Energy Agency (IEA) estimates in CO2 Emissions from Fuel Combustion (2007), CO2 emissions in Asia (including PR China) grew at an average 7.8% annually during 2000–2005, compared with an economic growth rate of 6.0%. Part of the environmental cost of PR China's fast growth is reflected in the staggering acceleration in its CO2 emissions from an average increase of 0.3% per annum during 1995–2000 to 10.2% a year during 2000–2005.
In gauging sustainability, the NAS approach has two major limitations. First, it is not equipped to analyze the impact of any irreversible events in the natural world. Second, any meaningful sustainability measures need to balance future risks against the uncertainty of future advancements, resource discoveries, and preferences of future generations.
Given our current knowledge, it is high time that sustainability concerns were more explicitly incorporated into national economic policy frameworks. Building a workable, coherent intellectual and statistical framework is an important step toward this goal. -
"The evolving role of the service sector" (Reading Productivity and Economic Trends)
Eunice Lau and Koji Nomura
APO News (Asian Productivity Organization) 2008年11月
記事・総説・解説・論説等(その他), 共著
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Traditionally, technological advances tend to favor manufacturing more than services, resulting in the former sector being the engine of productivity growth in an economy. Services, in contrast, have been perceived as the technologically stagnant sector. If its relative claim on resources in the economy is rising, overall productivity growth will be dragged down to the rate prevailing in the stagnant sector. When this so-called Baumol's disease takes root, economic growth is doomed to decline.
In recent years, however, a cure for Baumol's disease has started surfacing in empirical evidence, which points to the emerging capability of some service industries to capitalize on information and communication technologies (ICT) and achieve productivity growth. J.E. Triplett and B.P. Bosworth (FRBNY Economic Policy Review, September 2003) declared that, "Baumol's disease has been cured." This assertion was based on their findings that in the USA, labor productivity growth in the service industry equaled the economywide average in the latter half of the 1990s, driven by an unprecedented surge in total factor productivity growth. In short, services are no longer the sick industries in terms of productivity growth.
The pervasive nature of ICT has meant that its impact is not reserved for manufacturing but also can transform service industries. ICT is also seen as a disruptive technology, productivity assimilation of which often requires a major overhaul of business practices. The role of ICT in service industries is twofold. First, it provides an enabling technological platform to create and launch new service products. As ICT fundamentally improves the efficiency of data and information processing, its effective exploitation not only leads to an expansion of product possibilities but also creates new business formats and new industries selling service functionality. Second, by providing a cost-effective, time-efficient, borderless medium to store, present, and transmit information, ICT networks together with digitalization have helped make information and knowledge more marketable and breach the physical barrier of national boundaries. If supported by trade liberalization efforts, the international market offers these IT-using service industries new business opportunities and scope to reap economies of scale, which are unavailable to traditional services.
The service sector accounts for the biggest share of total value added in Asian countries, independent of their stage of development (Table 8, APO Productivity Databook 2008). The accompanying figure shows contributions of the service sector to labor productivity growth during 2000–2005, which were particularly prominent in India, accounting for just under 90%. At 5.8% on average per year, services were the sector with the highest labor productivity growth in India. This is consistent with the well-documented economic surge of India in the 1990s via its IT-based high-tech information services, which flourish on human rather than physical capital. By providing new ways to compete, modern ICT has allowed India to take an unusual path in economic development, bypassing a stage when manufacturing steers. Rather than being a laggard sector, service industries can be a leading sector driving productivity growth and development if ICT can be successfully assimilated and exploited. -
"The process of technology assimilation" (Reading Productivity and Economic Trends)
Eunice Lau and Koji Nomura
APO News (Asian Productivity Organization) 2008年10月
記事・総説・解説・論説等(その他), 共著
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Technological transfer plays a key role in economic development. Part of the technological advancement is embodied in capital goods, which can be acquired through investment. But how to master the embodied technology to yield its full productivity potential in the host country is largely tacit and requires learning by doing. This process of technology assimilation can be slow, disruptive, and costly. How successful a country can be in this respect depends on its social and technological capabilities. Empirically, assimilation rates vary across countries, resulting in diverse development experience and outcomes.
As mentioned previously in this column, the Asian miracle was credited largely to input accumulation rather than to total factor productivity growth. Focusing on level comparisons of Asian and US manufacturing for the period 1963–1997, Marcel P. Timmer (Journal of the Japanese and International Economies, 2002; 16: 50–72) observed that labor productivity levels achieved by the Republic of China and Republic of Korea in 1997, even after a period of capital intensification, were lower than what the USA had achieved at similar levels of capital intensity. In other words, capital accumulation might have created the potential but was itself not a sufficient condition for performance; the same amount of capital was used more productively in the USA in the late 1980s than in the Republic of Korea and Republic of China in the 1990s. Although capital intensity was not covered in the APO Productivity Databook 2008, the accompanying chart shows that labor productivity at the whole economy level in the Republic of China was 79% that of the USA in 2005, whereas the Republic of Korea's in 2005 was 85% and 55% of the US 1975 and 2005 levels, respectively.
The USA's superior assimilation ability was also apparent in comparisons with Europe. The divergent productivity performance in the latter half of the 1990s was largely attributed to the failure of Europe to reap productivity gains from ICT investments compared with the USA. Empirical evidence therefore suggests that soft investment in organizational change, managerial skills, and human capital is required to complement the accumulation effort.
Given the diminishing possibilities for further productivity improvements with a particular technology, sustained growth must involve the continual introduction of new technology, new goods, and new activities. However, the pace of the climb up the technological ladder can be too fast if insufficient time is allowed for the assimilation process and learning costs are too high to be beneficial to productivity growth. On the other hand, countries can also be stagnant in productivity growth with the existing technology when the pace of technological change is too slow and new opportunities are not created. The right balance is difficult to judge a priori, and different industry sectors even within a country can display diverse capabilities in adopting new technologies and pushing the frontier. In general, flexibility of a country in resource allocation and factor markets with a well-educated workforce will be conducive to the process. -
"Setting agriculture in order—an important step toward development"(Reading Productivity and Economic Trends)
Eunice Lau and Koji Nomura
APO News (Asian Productivity Organization) 2008年09月
記事・総説・解説・論説等(その他), 共著
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Asia is a diverse region with countries at different stages of economic development. Part of this diversity is reflected in the national industrial composition. Economic data suggest that the more an economy relies on its agricultural sector, the lower its per capita GDP. Although the actual path of economic development may vary, an effective redeployment of resources from the agricultural sector appears to be an element common to a country's development outcome.
The accompanying chart shows national industrial composition of total value added in 2005 (Figure 13 in the APO Productivity Databook 2008). The share of agriculture ranged from 44.8% in Lao PDR to 1.4% in Japan. The data suggest a negative correlation between the size of the agricultural sector and the relative per capita GDP against the USA. That is, the lowest income group tends to have the largest agricultural sector, whereas the top group has the smallest.
Agricultural employment in Asia accounted for 45% of total employment in 2005, compared with 1.1% for the USA. In Asia, agriculture generally has a higher employment share than its corresponding value-added share, implying that the sector's labor productivity level lags behind that of the wider economy. In 2005, per-worker value added in agriculture was only 31% of that in the nonagricultural sector on average. Assuming other things being equal, this difference in the industrial structure alone, i.e., the relatively less productive sector having a much greater weight, explains 10–20% of Asia's 84% labor productivity shortfall against the USA.
In the context of long-term trends, this snapshot of cross-country comparisons in 2005 reflects regional progress rather than weakness. Despite the widespread variations, nearly all countries studied are making concerted efforts to shift resources from agriculture, and most experienced positive labor productivity growth between 2000 and 2005, ranging from 1.1% in Japan to 5.8% in Malaysia (Table 11 in the APO Productivity Databook 2008). The trend of a long-term relative decline of agriculture is unmistakable.
It is perhaps no coincidence that the Green Revolution and rural reforms preceded economic reforms and the subsequent takeoff in China and India in the 1980s (see for example, Sachs, J., The End of Poverty, 2005). The boost in rural income was significant when agriculture's share in total employment was around 70% in both countries in the 1970s. The subsequent emergence of high-performing new sectors (particularly manufacturing in China and IT services in India) held the key to the productive absorption of resources displaced from agriculture and spurred overall growth. By 2005, agriculture's employment share had fallen to 53.7% and 44.8% in India and China, respectively. However, the corresponding value-added share of 18.3% and 12.6% still suggests significant slack in agriculture in these two economies, despite their rapid economic growth. Underemployment, and informal production and employment, are suspected to be prevalent in agriculture in these fast-transforming Asian economies. Given the size of the sector, their impact on economic measurement could be significant.