競争的研究費の研究課題 - 太田 泰友
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2022年06月-2024年03月
文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 太田 泰友, 挑戦的研究(萌芽), 補助金, 研究代表者
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本研究では、誘電率εがゼロ近傍に制御可能なEpsilon Near Zero材料を舞台に、磁気光学効果そのもの非線形応答の探求を行う。さらに、この新しい非線形磁気光学効果についてトポロジカルフォトニクスへの応用を検討し、新奇磁気光学デバイス創出に挑戦する。本研究は、 ともすればマイナーと見られていた非線形磁気光学効果を、デバイス技術へも応用可能なメジャーな効果へと変革し、非線形磁気光学の分野に新しい方向性をもたらすものである。
本研究は、イプシロンニアゼロ(ENZ)特性を示す酸化インジウムスズ(ITO)を舞台に、磁気光学(MO)効果の非線形光学応答の観測とその応用を検討するものである。初年度は、ガラス基板上への高品質ITOの成膜を試みるとともに、作製したITO薄膜に対する光学評価を行った。また、MO-ENZ材料を取り込んだ光学素子の設計にも取り組んだ。ITOの成膜では、スパッタターゲットの工夫やスパッタ条件の精密制御を通じて高品質化を図った。作製した薄膜はエリプソメーター等で評価し、その誘電率などを解析した。まず、ITO中の酸素濃度を変化させることでENZ波長の制御を試みた。結果、目標とする近赤外領域においてENZ特性を示すITO薄膜の形成に成功した。特に、高温での成膜条件を見出すことで、先行研究と比べてENZ波長における光学損失が小さなITO膜を形成することが可能となった。次に、同薄膜に対するMO分光を進めた。可視から近赤外域において、透過反射分光を行いガラス基板の影響を差し引くことでITO薄膜のMO応答を調べた。結果、近赤外域においてFaraday回転およびKerr回転ピークをENZ波長近傍で観測することに成功した。酸素濃度を変化させた試料においては、MO応答のピーク波長がシフトを示し、ENZ効果によって増強されていることが確認された。光学デバイスの設計では、ENZ材料をクラッドとしたフォトニック結晶構造の解析に取り組んだ。有限要素法をベースとしてヘルムホルツ方程式を解析しバンド構造などの基礎的な光学応答を調べた。
実験に用いる高品質ENZ-ITO薄膜の成膜に成功し、光学設計も順調に進んでいる一方で、超短パルスレーザーが故障し非線形分光の実験を中断せざるを得なかった。これらの状況を鑑みて、概ね順調に進展していると判断した。
今後は製膜したENZ-ITO薄膜に対する解析を進めその一層の高品質化に取り組むとともに、故障した超短パルスレーザーの修理ができしだい非線形分光実験に取り組みたいと考えている。並行して光学設計を進め、新奇MO素子に関する検討を行う。 -
半導体フォトニック結晶を用いた非線形トポロジカルナノフォトニクスの開拓
2022年04月-2026年03月日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 岩本 敏, 太田 泰友, 太田 泰友, 基盤研究(A), 未設定
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トポロジカルナノフォトニクスを線形光学の枠を超えて非線形光学領域へと展開する。具体的には、半導体バレーフォトニック結晶で実現されるトポロジカルスローライト導波路の低分散化を図り高効率な四光波混合を誘起することにより、構造揺らぎなどがあっても高い効率を示すパラメトリック増幅や高い量子相関を示す量子もつれ光子対生成の実現を目指す。さらに、バレーフォトニック結晶を積層することで発現する新たな光局在状態とそれを用いた高調波発生を実現する。これらの研究をとおして、新奇オンチップ非線形光学デバイスの可能性を探求し、“非線形トポロジカルナノフォトニクス”という新分野の開拓に挑む。
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2022年04月-2025年03月
日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 太田 泰友, 基盤研究(B), 未設定
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半導体薄膜に周期的に空孔を設けた2次元フォトニック結晶を回転させつつ積層することで、光ツイストロニクスを開拓する。これにより、新しい光閉じ込め機構および光系特有のツイスト物理を探求する。一般に困難とされる積層ナノ光構造の作製には申請者が開発を続ける転写プリント法を用い、高品質な半導体ツイスト積層フォトニック結晶を実現する。同構造の工学的有用性にも着目し、ハイブリッド集積ツイスト微小共振器レーザーへの応用を検討する。本研究を通じ、半導体光ツイストロニクスと呼ぶべき新分野を開拓する。
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磁気光学結晶-on-insulator基板の実現とナノフォトニクスへの応用
2019年04月-2022年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 太田 泰友, 基盤研究(C), 補助金, 研究代表者
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本研究では、磁気ナノフォトニクスという新しい研究分野を開拓するため、レーザーを用いた磁気光学薄膜の高品質分離技術を構築することを目指す。材料を薄膜化することで、光と物質の相互作用を増大することが可能となる。これにより、従来技術では難しかった超小型集積光アイソレーターや非相反トポロジカル光導波路といった新しい磁気光学デバイスの実現が期待される。
磁気光学材料である単結晶イットリウム鉄ガーネットを用いて薄膜を作製し、ナノフォトニクスへの研究に応用することを目指している。昨年度までに、スピンオングラスを用いたシリコン基板上へのガーネット基板のウェハ融着を実現し、融着ガーネット層を研磨により薄膜化することに成功した。
今年度は、これらの技術の一層の高度化をはかるとともにドライエッチングによるガーネット厚みの精密制御に取り組んだ。また数値計算を用いて磁気ナノフォトニクス構造の光学応答を解析することにも取り組んだ。
ウェハ融着では、昨年度までの課題であった残存パーティクル除去プロセスの構築を進めた。光学顕微鏡下でアルコールおよびクリーンペーパーを用いてふき取ることで、最もパーティクルを低減できることが分かった。これにより、高い確率でウェハ融着を成功させることが可能となった。これにより、より大きなガーネット基板を融着することも可能となった。研磨においては、研磨の各段階においてスラリーおよび研磨パッドを最適化することにより、クラックフリーでの研磨が可能となった。また、研磨ホルダーやパッドを精密に平坦化することで、薄膜厚みの均一性を高めることに成功した。
ドライエッチングでは、基板の精密な薄膜化に取り組んだ。Arガスのみによるプラズマエッチングにより、表面粗さを増加させることなく薄膜化することに成功した。また、エッチングレート約20nm/minで安定的しており、非常に高い精度で膜厚を制御可能であることが見いだされた。
数値計算では、有限要素法をベースとした計算を行った。特に、解析が容易な磁気光学マイクロディスクで発生するFaraday回転について調べたが、現状では明瞭な回転増強効果は見られていない。これはガーネットの屈折率が低いため十分な共振効果をディスク内で保つことができなかったためだと考えられる。
ナノフォトニクスに適用可能なシリコン上薄膜ガーネットの作製に成功した。また膜厚を精密に制御する手法を見出した。今後、これらの基本技術を土台とすることで、磁気ナノフォトニクスの探求が可能となる。これらの状況を鑑み、おおむね順調に進展していると判断した。
ウェハ融着に関しては、より強い接合強度を得るため、スピンオングラスのアニール条件や融着条件の最適化を図る。また、スピンオンガラス厚みを調整し、融着への影響を調べる。また試料のプラズマ処理工程に関しても必要に応じて条件の再検討を行う。
研磨に関しては、最終工程である化学機械研磨のさらなる改善を目指す。研磨パッドをより硬質なものに変更し、ガーネット基板端におけるエッジ鈍りの低減をはかる。
ドライエッチングに関しては、微細加工のためのドライエッチング技術の構築をはかる。これまで塩素系では微細加工は難しかった。そこで加工ガスを変更することで同技術の実現を目指す。エッチング選択比を大きくとるために、エッチングマスクについても見直しを進める。
数値計算では、ガーネット材料による磁気光学マイクロディスクの計算を発展させ、同構造を周期的に配置したフォトニック結晶の解析を進める。垂直入射時におけるファラデー回転量を大きくするための光学構造を検討し、有限要素法や有限差分時間領域法などにより解析を行う。加工プロセス技術の進展を合わせ、実際に作製でき光学評価が可能となる構造について集中的に解析を行う。 -
2016年04月-2020年03月
東京大学, 科学研究費助成事業, 太田 泰友, 基盤研究(C), 未設定
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本研究では、半導体集積光回路上へ量子ドット単一光子源を集積する技術の開発と同系における量子光学実験を行った。集積技術として転写プリント法を研究し、ナノ共振器光源を光導波路上へ±50nm程度の位置精度で集積することに成功した。また、同構造において99%を超える光源効率を達成可能なことを電磁界計算により明らかにした。半導体ナノ加工技術と転写プリント法を組み合わせて様々な試料を作製し、光回路上での単一光子発生、複数光源集積やその独立発光波長チューニングなどを実現した。
転写プリント法によりナノ共振器光源を光回路上へ的確に集積できることを示した点は大変意義深い。同手法は、その他のナノ光素子へも容易に適用できる。今後、多様な光素子の自在集積が可能である稀有な光集積技術として活用されていくことが期待できる。また、同技術を用いて光源を作製した場合でも、非常に高い光源効率が実現可能であることを示した点も重要である。本研究での成果が、量子技術に要求される高性能量子光源の開発に活用できることを示唆している。 -
量子ドット-ナノ共振器多重量子結合系における固体量子電気力学探究と新ナノ光源創成
2015年-2020年日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 荒川 泰彦, 岩本 敏, 清水 明, 太田 泰友, 岩本 敏, 清水 明, 太田 泰友, 越野 和樹, 上出 健仁, 特別推進研究, 未設定
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継続して高品質な量子ドット―ナノ共振器結合系の形成技術の追求を続け、多様な観点から発展を図ることで、多くの実験成果を得た。また、量子ドット―共振器結合系に対して、トポロジー・超対称性・スキルミオンなどの概念を取り込み、その創発的な量子電気力学現象や光機能について理論的な知見を深め、量子ドット光源への応用を進めた。以下に、推進する3つの研究領域における成果をまとめる。
1. 量子ドット・ナノ共振器形成基盤技術開発 :
ナノ共振器の高Q値化メカニズムを光物性の観点から検討した。表面欠陥や自由キャリアによる光吸収の影響を明らかにし、これまでに構築した表面改質ポストプロセスの有用性を明らかにした。また、昨年度から検討を開始した新型高Q値ナノ共振器を用いて量子ドットとの強結合状態を実現した。さらには、光導波路に同時集積した二つの量子ドット―ナノ共振器において、双方の量子ドット発光波長をチューニングし一致させることに成功した。一方、メタモルフィッ構造や3重層構造を活用した通信波長帯高品質InAs/GaAs量子ドットの結晶成長に成功した。また、分子線エピタキシー時における電子線回折像による結晶成長モニタリングに対して、畳み込みニューラルネットワークを用いることでその機械化を図った。また、トポロジカルな概念を用いた低群速度光導波路の設計を見出し、その基礎特性を主に数値計算を用いて明らかにした。
2. 固体量子電気力学探究 :
共振器から偏光状態や角運動量状態を制御して光を回折する手法を見出した。それによりスピン・軌道角運動量状態の制御された光重ね合わせ状態により実現される光スキルミオン状態が遠方界で実現できることを数値計算により示した。さらには、その応用として高次フルポアンカレ状態を生成できることも見出した。また、量子ドット系における一般化猫状態を用いた磁気検出技術について、理論検討を進めた。一方、高次トポロジカルコーナー状態を活用した光ナノ共振器の設計を行い、量子ドットとの結合を実験的に観測することに成功した。さらには、トポロジカルエッジ状態による光導波路と量子ドットとの光結合を観測した。これらの研究成果とその応用研究に関して国際共著の解説論文にまとめ、国際論文誌において発表した。
3. 極限量子ドット光源開発 :
量子ドット―共振器多重結合系をトポロジーの観点から適切に配置することで、単一モード動作レーザに応用できることを見出した。数値計算を進め、実現に必要な素子パラメータを明らかにした。また、同多重結合系を2次元に配置した場合には、超対称性に基づいたアレイ配置により、2次元単一モード動作するレーザへ応用が可能であることを明らかにした。また、反射鏡を埋め込んだ導波路とナノ共振器の相互作用を検討し、光出射効率を高めた導波路型単一光子源の実現に成功した。一方、適切な光学構造と組みわせることで高効率な窒化物単一光子源の実現にも成功した。 -
量子ドット-ナノ共振器結合系における二光子自然放出過程を活用した量子光源
2012年04月-2015年03月東京大学, 科学研究費助成事業, 太田 泰友, 若手研究(B), 未設定
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量子ドット‐フォトニック結晶ナノ共振器結合系における二光子相互作用の物理およびその応用に関する多くの成果を上げた。特に、レーザ発振および非線形光学波長変換を単一ナノ共振器中で実現する自己周波数変換ナノ共振器レーザを提案・実現した。量子ドットの広帯域ゲインを利用し、ほぼ可視域全体をカバーするマイクロ集積可視ナノレーザアレイを実現した。また、第二高調波発生が光子の量子統計性に依存することを実験理論の両面から議論した。加えて、強く結合した量子ドット‐ナノ共振器系からの自由空間への自然放出を測定する手法を提案・実証した。これらの成果は、二光子の物理を応用した様々な量子光源開発に対して重要な知見となる。
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量子ドットとフォトニック結晶を用いた量子光回路に関する研究
2010年-2011年日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 太田 泰友, 特別研究員奨励費, 未設定
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集積性は、量子コンピュータなどに代表される大規模な量子回路を構築する際に必須と考えられる要素である。自己形成量子ドットを基盤とした系は、半導体加工技術を駆使することで高い集積性を実現可能であり、非常に有望である。しかし、量子ドットは空間的、周波数的ばらつきを有し、設計通りの光回路系を構築することが難しい。そこで本研究では、空間位置・共振周波数を調整可能な高Q値フォトニック結晶ナノ共振器を、オンデマンドで且つ、In-situで作製可能な手法提案している。そのような共振器が実現出来れば、必要な量子ドットに対して位置・周波数を調整した共振器を結合させ、共振器-量子ドット-光導波路系からなる所望の量子光回路を構築することができると期待される。
今年度は、上述の課題において最も重要な、オンデマンド高Q値フォトニック結晶ナノ共振器の設計、作製、そして量子ドットとの結合状態の観測を試みた。そして低温化において共振器の形成を確認し、その振る舞いについて分析を行った。
まず、GaAsフォトニック結晶導波路上に光誘起屈折率変化が可能なカルコゲナイドガラスを装荷した場合を想定し、微小な屈折率変化によりどのような共振器が形成されるか調べた。時間領域有限差分法を用いた計算により、屈折率0.03の変化を与えた場合、Q値約700万、モード体積0.05μm3の共振器が形成可能なことを明らかにした。次に、電子線描画リソグラフィー等によって前述の構造を実際に作製し、低温顕微分光実験を行った。レーザー(633nm,直径2um)照射による屈折率変化を与え、そのフォトルミネッセンススペクトラムを観測した。レーザー照射後には狙い通り、共振器由来の2つのピークが観測されていることが分かった。これは量子ドットからの発光が共振器と結合してから外部に放出された結果と考えられる。共振器のQ値は共に8000程度であった。