競争的研究費の研究課題 - 荒井 緑
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タンパク質ビーズ法による人工天然物エキスからの新規タウ分解分子のりの開発
2023年06月-2025年03月荒井 緑, 挑戦的研究(萌芽), 補助金, 研究代表者
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病原微生物の「浸潤進化」に学ぶ休眠遺伝子活性化と創薬シード分子の創製
2021年04月-2024年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 荒井 緑, 基盤研究(B), 補助金, 研究代表者
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我々は「病原微生物と動物細胞との共培養」による微生物の休眠遺伝子活性化法を開発した.本研究では病原微生物が免疫細胞の攻撃に打ち勝とうと,化合物を生産する能力に着目する.新規構造と新規活性の天然物が多く含まれる「共培養エキスライブラリー」を作成し,独自手法の「標的タンパク質指向型天然物単離法」によりタンパク質に結合する活性天然物を迅速に単離・構造決定する.得られた天然物の生物活性を検証し,神経再生,抗がんへも応用する.さらに合成化学,計算科学により誘導体展開しより高活性な化合物を得,作用機序解析を行いこれまでに無い新規医薬シード創出を目指す.
放線菌や真菌は,多くの有用な化合物を提供してきた.しかしながらその遺伝子は2割程度しか働いておらず,新たな新規天然物を生産するであろう生合成遺伝子が眠ったままの休眠遺伝子であることがわかっている.我々は近年,病原放線菌と動物細胞の共培養法を開発し,休眠遺伝子活性化に成功している.この新規手法は,病原微生物が動物に感染する際の状況を再現し,疑似感染状態を模倣したもので,国内外でも初めての例であり独創的で新規性が高い.本研究では,本共培養法を病原真菌にも応用し,新たな共培養特異的化合物を見いだし,その生産機構に迫ることを目的とする.
千葉大学真菌医学研究センターが保有する臨床検体から分離された病原真菌と免疫細胞(マウスマクロファージ様細胞)を様々な条件下共培養を行った.細胞のみの培養,菌のみの培養および,共培養の際の化合物生産をHPLCで比較し,共培養特異的化合物を見いだした.
病原放線菌Nocardia tenerifensisとマウスマクロファージの共培養により生産されるnocarjamideの生産機構の解明に向け種々検討し,N. tenerifensisは,マクロファージの出す比較的大きいタンパク質に反応している可能性があると推定した.
病原真菌Aspergillus属とマウスマクロファージ様細胞の共培養を行い,共培養特異的に産生される化合物を単離・構造決定した.また,RNA-seq.により,fumarylalanineの生合成クラスターSidEが共培養特異的に発現が上昇することを見いだした.Aspergillus属とマウスマクロファージ様細胞との共培養で,fumarylalanineの生合成が上昇し,化合物は,fumarylalanineを用いて生合成されたと推測した.
病原放線菌Nocardia tenerifensisとマウスマクロファージの共培養により生産されるnocarjamideの生産機構の解明に一歩前進し,N. tenerifensisは,マクロファージの出す比較的大きいタンパク質に反応している可能性があると推定した.また,病原真菌Aspergillus属とマウスマクロファージ様細胞の共培養を行い,共培養特異的に産生される化合物を単離・構造決定し,RNA-seq.により,fumarylalanineの生合成クラスターSidEが共培養特異的に発現が上昇することを見いだした.共培養特異的化合物はfumarylalanineを用いて生合成されたと推測することができている.
また,その他のAspergillus属において,動物細胞との共培養も検討しており,共培養特異的化合物を2種,単離・構造決定に進んでいる.
また,その他の病原微生物と動物細胞との共培養も検討しており,共培養特異的化合物を2種得ており,構造解析中である.
このように,他の共培養系でも共培養特異的化合物が得られているため,本研究は順調に進んでいる.
今後は,現在,共培養特異的化合物が得られている,Aspergillus属,病原微生物の単離化合物の詳細な構造解析を行い,さらに,RNA-seqを用いて動物細胞との共培養で発現が上昇している遺伝子から生合成遺伝子を特定していく.さらに,その生合成遺伝子をノックアウトした際に化合物が産生されなくなるかも検証する.また,動物細胞との共培養で,どうして休眠遺伝子が活性化されるのかのメカニズム解析のため,微生物と細胞の接触が必要なのか,細胞の培養液のみの添加で微生物の休眠遺伝子が活性化されるのか,などを検討していく.
また,今年度は,さらに異なるカテゴリーの微生物の使用も計画しており,本共培養系の応用範囲を検証していく.
また,合成的なアプローチも計画しており,単離された共培養特異的化合物を有機合成的に供給し,その生物活性を検討していく.生物活性は,免疫抑制活性や,神経幹細胞の分化促進活性,がん細胞への毒性,がん細胞の遊走阻害活性などである.また,重要なシグナル伝達である,Wnt, Hedgehog, Notchシグナルの細胞アッセイ系も有しており,それらへの影響も検討する. -
2020年04月-2023年03月
科学研究費助成事業, 石橋 正己, 高屋 明子, 原 康雅, 荒井 緑, 基盤研究(B), 未設定
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本研究では,がん幹細胞の生存と分裂を支えるがん微小環境(ニッチ)で亢進するシグナル分子をターゲットとして,「がん不均一性の克服」に寄与する低分子化合物を天然物から探索することを目的とする.そのような標的シグナルとして,幹細胞の自己複製に関わるウィント(Wnt),ヘッジホッグ(Hh),ノッチ(Notch),およびポリコーム構成分子BMI1などを取り上げる.これらは「幹細胞ニッチシグナル」とも呼ばれいくつかのシグナル阻害剤や創薬候補が見出されているものの十分ではない.本研究では天然物を素材対象として,これらシグナルに有効な作用を示す高活性天然機能分子の探索と開拓および機能解明を行う.
本研究では,がん幹細胞の生存と分裂を支えるがん微小環境で亢進するシグナル分子に作用する天然物から探索することを目的とする.今回,がん選択的にアポトーシスを誘導するトレイル(TRAIL)やエピジェネティック遺伝子転写を制御するポリコーム構成分子の一つであるBMI1のプロモーター阻害作用等に関するスクリーニングを植物成分や真菌等の微生物由来成分を対象として行った.
1)TRAIL耐性胃がん細胞を用いたスクリーニングにより,バングラデシュ産シンクシ科植物Terminalia belliricaから2種の新規化合物を含む4種のリグナンおよびガロイル化配糖体を単離した.このうちトリガロイル化グルコピラノースの1種は顕著なTRAIL耐性克服作用を示した.また,タイ産のミカン科植物Murraya exoticaから,TRAIL耐性克服作用をもつ一連のセスキテルペン類を単離した.そのうちdihydorxanthininはカスパーゼ3及び8の活性化,ならびにデスレセプターDR5等のタンパク質の発現増強,抗アポトーシス分子Bcl2の発現抑制等の作用を示した.
2)千葉市産土壌から分離した真菌Clonostachys rogersoniana IFM66735の玄米培地培養エキスから,ジまたはトリスルフィド結合を含むインドール二量体型アルカロイド化合物を7種単離した.その中の1種のジスルフィド型二量体化合物sch52901は顕著なTRAIL耐性克服作用を示し,さらに低濃度(0.05-0.5μM)においてWntシグナル活性化作用を示すことが明らかとなった.
3)BMI1に関するスクリーニングにより,タイ産マメ科植物Mammea siamensisより,新規化合物1種を含むクマリン型天然物11種およびフラボン型誘導体3種を単離した.このうちクマリン類8種は顕著なBMI1プロモーター阻害活性を示した.
TRAIL,BMI1,およびWntシグナル等に対するスクリーニングを継続して行い,植物および真菌成分から数種の活性化合物を単離した.これらのスクリーニングを継続して行った結果,さらに複数のヒットサンプル(植物エキスおよび放線菌ならびに真菌培養エキス)が見出された.これらからさらに未知の活性天然物が単離されることが期待される.一方,これまでに得られた活性成分に対して,主にTRAIL耐性克服作用を示す天然物に対して,ウェスタンブロット法を用いた作用機構の解析を行い,シグナル経路を構成するタンパク質の増減等に関する知見が得られた.
TRAILおよびBMI1シグナル等に対するスクリーニングを植物エキスや放線菌等のエキスを対象にさらに継続して行っていく.また,最近では,NO産生抑制活性に関するスクリーニングも実施しており,これまでに,興味深い活性を示すヒットサンプルがすでに複数種見つかっているので,活性成分の探索をさらに詳細にすすめていく.また,これまでに単離した天然物の中で,BMI1プロモーター阻害作用等の興味深い作用を示した活性成分を数種選別し,それらについての作用メカニズムを分子レベルで解析する実験をさらに進展させ,作用メカニズムの解析に関する実験を検討し実施する. -
幹細胞制御を目指した天然物基盤生死の天秤シグナルモジュレーターの創成
2018年04月-2021年03月科学研究費助成事業, 荒井 緑, 基盤研究(B), 未設定
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生体内には生命の維持に重要であるが,ひとたび変異等で異常亢進すると疾病の原因となる,生死の天秤とも呼べる重要なシグナル伝達が存在する.我々はこれらシグナルのモジュレーターを,独自のタンパク質および細胞アッセイを用いて活性天然物を亜熱帯植物および放線菌エキスライブラリーから探索した.また単離した化合物の全合成および誘導体合成と活性評価も行った.さらには微生物の休眠遺伝子活性化法として,微生物―動物細胞共培養法を開発した.
本研究では,これまでに多くの医薬候補が得られていないNotchシグナル等の阻害剤を天然物資源より,独自のアッセイ方法を用いて見いだしており,再生医薬や新規抗がん剤の種を提示しただけでなく,効率的な活性天然物の単離アッセイ方法を示しており,大きな学術的意義や社会的意義を有している.さらに休眠遺伝子活性化法として開発した病原微生物と動物細胞の共培養においては,病原微生物の「浸潤進化」というこれまでにない概念を打ち出した. -
2017年06月-2019年03月
科学研究費助成事業, 荒井 緑, 挑戦的研究(萌芽), 未設定
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天然資源から得られる抽出エキスは,人知の及ばない骨格から成り立つ多様な化合物の混合物である.光環化付加反応をエキスにほどこし,さらに多様性を増大させた人工天然化合物の混合物を作製することを目的とした.種々の生薬エキスのMeOH抽出エキスを用い,光反応を検討したが,再現性が乏しく,光反応自体をフルオロタグを付したオレフィンを用いて検討した.その合成検討に先立ち,ヘテロ環を有するロカグラミド誘導体の合成に成功した.それらは強いWntシグナル阻害作用を有していた.また,ビオチンタグを有するロカグラミド誘導体も合成し,阻害活性が保持されることを確認した.
本研究では生薬エキスを用いて光環化付加反応を検討した.光反応を用いたエキス有機合成は初の試みであった.また,光環化付加反応を用いて種々のヘテロ環ロカグラミド誘導体の合成に成功し,それらが,がんで異常亢進しているWntシグナルに対する阻害作用を有していることを見いだした.この結果は,ヘテロ環含有ロカグラミドの新規生物活性を見いだした学術的意義もさることながら,ロカグラミド誘導体が新規抗がん剤リードになる可能性を示唆しており,社会的意義があるものと考えている. -
がん微小環境亢進シグナルの攻略に寄与する高活性天然物の探索と機能解明
2017年04月-2020年03月科学研究費助成事業, 石橋 正己, 荒井 緑, 原 康雅, 石川 直樹, 基盤研究(B), 未設定
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本研究では,がん微小環境で亢進する細胞シグナルに作用する有用な低分子化合物を主に天然物から見出すことを目的として,幹細胞の自己複製に関わる細胞内シグナル,エピジェネティク遺伝子転写を制御するポリコーム構成分子,癌細胞選択的なアポトーシス誘導因子等を標的としたスクリーニングを行った.その結果,植物,放線菌の天然物抽出エキスコレクション等から,Wntシグナル阻害作用,TRAIL耐性克服作用,Bmi1プロモーター阻害作用など,種々の有用な活性成分を単離し,それらの化学構造を明らかにするとともに,がんの進展に関わる各種タンパク質の発現への影響など作用機構に関する解析を行った.
本研究で対象とする「がん微小環境」で亢進する細胞シグナルは,正常な幹細胞の自己複製,胚の発生,分化,成人組織再生などにおいて重要な役割を担っていることからきわめて注目度が高く,これまでにも世界的に熾烈な開発競争が繰り広げられてきている.しかしながら,まだ決して十分な状況ではなく,数多くの選択肢を用意することが強く求められている.本研究では「天然物」という独自の素材を用いて,これらのシグナルに作用する数種の低分子化合物が見出された.これらを有効に活用することにより,新しい切り口として創薬研究あるいは各種シグナルを介した生命システムの解明等,周辺分野の研究進展につながることが期待される.