競争的研究費の研究課題 - 土居 丈朗
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2024年04月-2027年03月
科学研究費助成事業, 井堀 利宏, 板谷 淳一, 中川 真太郎, 小西 秀樹, 赤井 伸郎, 亀田 啓悟, 寺井 公子, 土居 丈朗, 宮里 尚三, 基盤研究(A), 未設定
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本研究では、①非常事態の規模と時期に関する不確実性や財政出動の非効率性について、評価バイアスの影響や国際的なリスク管理のあり方を理論、実証分析する。ついで、②我が国が直面する構造的な制約要因(高齢化とシルバー民主主義、財政・社会保障制度の持続可能性、異次元金融緩和政策)の中長期的な影響を理論、実証分析する。さらに、③事前のリスク回避対応や事後的に実施される財政出動が地方政府、民間の家計や企業、金融機関などにもたらすプラス(補完)とマイナス(代替)の波及効果の実態を理論、実証の両面から評価する。こうした分析を踏まえて、非常時に適切な財政政策や財政制度の構築について研究をまとめる。
非常時における財政対応のあり方を理論・実証分析するという本研究目的に沿って、2024年度は主として理論的なモデル分析を中心に、いくつかの課題研究を実施して、重要な成果を得た。
①コロナ対応補正予算についてEBPM政策(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の視点でその実態と有効性を検証した。②非常時財政対応の国際的波及効果を理論的に検討した。とくに、居住地主義に基づく所得税制下の租税競争モデルにインフラ投資と公債発行を組み入れた理論モデルを構築し、投資におけるホームバイアスや資本初期賦存量の地域間非対称性がある場合に、非常時における所得税率、公債発行額、資本移動の動向を考察した。③感染症対応としてのワクチン接種行動について、データ入手可能なインフルエンザ・ワクチンを対象としてその効果を分析した。ワクチン接種は、その接種費用のみならず、周囲の接種状況が影響を与える可能性があり、それが接種率の地域差をもたらす。周囲の接種率が高いと本人の接種確率が高くなるというプラスのピア効果を確認した。④政府間財政の視点から、非常時の財政支援を中央政府が事後的に行うモデルで、地方自治体が戦略的に行動する場合に生じる非効率性を理論的に研究した。⑤共助や自助など複数の自発的対応も存在する経済において、非常時における負のショックで貧困に陥った家計に対する所得補償という公的なセーフティ-・ネットの提供が社会厚生に及ぼす効果を検討した。⑥非常時の財政対応で将来の財政破綻リスクが増大するケースを想定して、無駄な歳出を抑制する財政健全化の枠組みがどの程度望ましいのかを政治経済学の理論モデルで考察し、最善解と次善解で財政再建の望ましい度合いが異なることを示した。
2024年度の研究課題は順調に進展していると判断できる。すなわち、2024年度は非常時財政対応のマクロ経済効果、公共財の自発的供給やワクチン接種などに関する研究が国際学術雑誌に公刊された。さらに、複数の研究成果をいくつかの国際学術雑誌に投稿中で、今後さらなる公刊が期待できる。また、国際学会での研究成果の報告も数多く行っており、内外の研究者から有益なコメントを得て、それを生かす形で研究を発展させている。この点でもおおむね想定通りの研究成果が得られている。研究分担者、研究協力者および海外の共同研究者との研究打ち合わせや研究活動の調整も活発に実施して、この面での研究活動もおおむね順調に進展している。
特に、理論面での研究は想定以上の成果も上げている。非常時対応の政治経済学分析では、財政破綻のコストが大きくなる場合に、次善解では財政再建努力を緩める方が望ましいという興味ある分析結果が得られた。非常時リスクへの財政対応をワクチン接種など公共財の自発的供給の視点で研究している研究課題でも、プラスの社会規範の効果を検証できた。コロナ対応の財政出動や政府間財政に関する実証分析も順調に進展している。
ただし、非常時財政対応に関する金融面での研究分野では、特に政策金融のデータの収集、整理に少し時間を要しており、この点での研究進捗状況はやや遅れている。
2025年度から実証分析との関連を意識して研究分担者を2名拡充させて、非常時財政対応に関する理論分析を進めると共に、実証分析でも研究を進展させる。非常時発生後の事後的な救済措置も考慮することで、モラルハザードや時間整合性にも留意し、非常時対応の財政運営についての理論実証研究を深める。
①非常時に過大な財政対応が生じるメカニズムを理論モデルで考察する。数年の期間で景気が変動する平時と数十年に一回生じる外生的ショックの非常時を区別することで、財政対応にどのような差が生じるかを政治経済学の視点で数値解析分析する。②動学ゲームを活用して財政対応の持続可能性と一時的政策の有効性を比較することで、非常時におけるコミットメントのあり方を理論分析する。③高齢化による自然増も考慮し、行政の効率性に関するガバナンス指標も参照しながら、政治的バイアスが予算編成にどの程度弊害をもたらすのかという視点で、非常時における財政対応が社会保障歳出などの歳出へ及ぼす中長期的な影響を理論・実証分析する。政府間財政における代替補完効果についても、データを整備して検証する。④非常時に予算規模が過大になると、財政や社会保障制度の持続可能性が危うくなる。この持続可能性への悪影響を理論・実証分析する。⑤財政の金融ファイナンスが事実上進展している現状を踏まえて,非常時のマネーファイナンスや債務のロールオーバーがもたらす財政破綻リスク、金融緩和からの脱出時に生じる中央銀行の債務超過回避のための財政出動リスク、物価変動等のマクロ経済への影響を理論・実証分析する。⑥ゼロゼロ融資などコロナ関連の金融融資の政策効果を実証的に精査する。また、コロナワクチン接種の実態を分析して、非常時の政策対応における社会規範の役割を検証する。 -
2023年04月-2026年03月
科学研究費助成事業, 土居 丈朗, 基盤研究(C), 補助金, 研究代表者
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本研究では、日本で2010年代に行われた法人実効税率の引下げと外形標準課税(事業税付加価値割と資本割)の拡大が、設備投資や雇用、要素所得の分配や資金調達といった企業行動にどのような影響を与えたかについて、日本企業のパネルデータを用いた計量分析を行う。具体的には、法人税改革の実施をイベントとして捉えて、自然実験的な状況を活用し、法人税改革の影響を描写できる動学的一般均衡モデルに基づき、反実仮想的なマイクロシミュレーションを行って、改革後の状態と改革を実施しなかったら実現したであろう状態とを比較することで、改革の個々の施策が与えた影響を定量的に示す。
本研究の目的は、2010年代に日本で法人実効税率の引下げと外形標準課税(事業税付加価値割と資本割)の拡大を行った法人税改革が、日本企業の設備投資や雇用、要素所得の分配や資金調達など企業行動に与えた影響を明らかにすることである。
2024年度の研究実績は、次のようなものである。2023年度から継続して、経済産業省「企業活動基本調査」や財務省「法人企業統計調査」や日経NEEDS財務データを用い、企業財務のパネルデータの構築を進めた。これらの企業データは、本研究が対象とする法人税改革の実施前と後の時期を含むとともに、資本金が1億円超と1億円以下の企業が十分な数含まれている。
この企業財務のパネルデータと国税庁税務大学校で提供された法人税申告書の個票データを用いて、2010年代の法人税改革(成長志向の法人税改革)の時期をはさんで、企業の資本構造と労働分配に与えた影響を計量分析した。この法人税改革では、2018年までに法人実効税率を34.62%から29.74%に引き下げた。同時に、資本金1億円超の企業にのみ課税される事業税の付加価値割と資本割の税率は2.5倍に引き上げられた。外形標準課税の課税ベースは企業所得ではなく、生産要素への支払いである。この法人税改革において、資本金1億円超の企業と1億円以下の企業とでは、税率変更等の影響が異なっている。
この点に着目して、分析に際しては、推定方法としてSynthetic Difference-in-Differences (SDID) を採用し、標本期間を2014~2020年度、資本金1億円超の企業を処理群、資本金1億円以下の企業を対照群とした。日本企業のパネルデータ分析から、資本金1億円超の企業では、税制改正後に外形標準課税の税率が引き上げられたことにより、労働分配率やエクイティファイナンスが減少していることがわかった。
理由として、次の点が挙げられる。2010年代に実施された日本で法人実効税率の引下げと外形標準課税(事業税付加価値割と資本割)の拡大について、経済産業省「企業活動基本調査」や財務省「法人企業統計調査」や日経NEEDS財務データを用いたパネルデータを予定通りに構築し、法人税改革の前後の差異に着目して、企業金融や労働分配に与えた影響を計量分析した研究を、日本財政学会第81回大会で報告した。
2025年度も研究実施計画通りに研究を推進する予定である。本研究で構築した日本企業のパネルデータを用いて、引き続き、外形標準課税の拡大を含む法人税改革をイベントとした計量分析を行い、法人税改革前後で設備投資や雇用、要素所得の分配や資金調達などの企業行動がどのように変容したかについて明らかにする。
2025年度は、本研究の成果を論文としてまとめ、公刊することを目指す。2023年度にディスカッションペーパーとしてまとめた論文を学術誌に掲載することを目指す。また、2024年度に国内学会で発表した研究を、英文論文としてまとめ、国際学術誌に投稿して掲載を目指す。 -
コロナ危機以降の多様な格差の構造と変容:家計パネルデータを活用した経済学研究
2022年04月-2027年03月科学研究費助成事業, 山本 勲, 直井 道生, 大垣 昌夫, 佐野 晋平, 駒村 康平, 土居 丈朗, 大津 敬介, McKenzie Colin, 大久保 敏弘, 佐藤 一磨, 瀬古 美喜, 隅田 和人, 奥山 尚子, 窪田 康平, 川本 哲也, 中村 亮介, 山田 篤裕, 井深 陽子, 寺井 公子, 小川 顕正, Hsu Minchung, 北尾 早霧, 赤林 英夫, 別所 俊一郎, 特別推進研究, 未設定
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本研究では、コロナ危機で露呈した柔軟な働き方や社会関係資本、危機管理などのショックに対するレジリエンスや、健康や生活、住環境などのウェルビーイングといった非金銭的な側面での格差も含めた従来よりも広範な格差概念を研究対象とする。その上で、コロナ危機によって幅広い側面での格差がどのように顕現化し、中長期的にどのように変容しうるか、また、新しいテクノロジーの進展や少子高齢化などのメガトレンドや各種の制度・政策が、格差への影響度合いも含めて中長期的にどう変化するかについて、国際比較可能な家計パネルデータを共通インフラとして構築し、応用ミクロ経済学やマクロ経済学の幅広い経済学分野からの解明を図る。
本研究では、コロナ危機によって非金銭的な側面も含めた幅広い側面での格差がどのように顕現化し、中長期的にどのように変容しうるか、また、新しいテクノロジーの進展や少子高齢化などのメガトレンドや各種の制度・政策が、格差への影響度合いも含めて中長期的にどう変化するかについて、国際比較可能な家計パネルデータを共通インフラとして構築し、応用ミクロ経済学やマクロ経済学の幅広い経済学分野からの解明を図る。
本年度は、コロナ危機以降の多様な格差の構造と変容を捉えるためのパネル調査の設計・実査を行った。具体的には、2004年から実施している「日本家計パネル調査(JHPS)」や、2019年から実施しているJHPSの調査協力者の子ども世代に対する「JHPS第二世代付帯調査」の質問項目を改良するとともに、合計で約6000世帯に対する調査を実施した。
各研究班の研究実績としては、論文35(うち査読付論文19本)および図書2冊となった。各研究班とも査読付学術雑誌への掲載に注力し、Social Indicators ResearchやReview of Economics of the Household、Education Economics、Journal of Labor Research、LABOUR、Journal of Family and Economic Issuesなどでの公刊が実現した。
また、世界11ヶ国の家計パネル調査の実施関連機関やイギリスのKing’s college、フランスのEHESSなどとの国際共同研究も進め、国際・学際セミナーを複数開催した。さらに、日本を代表するパネルデータとして、国内外の研究者へのJHPS等の提供を行ったほか、母集団ウエイトを作成し、パネルデータの質の維持・向上にも努めた。
研究の共通インフラとして構築する家計パネルデータについては、計画通り、「日本家計パネル調査(JHPS)」(継続調査・新規調査)ともに、付帯調査である「JHPS第二世代付帯調査」や「日本子どもパネル調査」を実施できた。これらの調査をもとに研究期間にパネルデータを用いたさまざまな研究が計画以上に進捗することが見込める。
また、非金銭的な側面も含めた幅広い側面での格差の変容などの研究についても、各研究班が積極的な研究を実施し、3年間で査読付き学術雑誌での論文を63件公刊するなど、計画以上の研究実績を積み上げている。また、構築したパネルデータの研究機関への提供や共同研究の遂行などによって、国際的・学際的ネットワークの拡充も果たした。例えば、本研究で構築しているJHPSは、日本を代表する家計パネルデータとして、Luxemburg Income Study(LIS)やオハイオ州立大学が指揮をとる国際パネルデータベースCross-National Equivalent File(CNEF)などに継続して提供しており、これらの研究機関を通じて、世界の研究者に広くJHPSが利用されている。また、2025年3月には、コロナ危機の影響を国際比較する国際会議Cross National Research Conferenceを東京で開催し、世界9ヶ国から約30名の研究者による研究報告と意見交換を行った。このほか、イギリスのKing’s collegeやInstitute for Fiscal Studiesなどの研究者とは、コロナ危機が労働市場などに与えた影響に関するテーマで日英での共同研究を進め、合同研究報告会議を開催し、学術的な意見を交換した。こうした進捗により、研究期間内に国際比較による新たな学術的知見の導出が見込める。
次年度以降も、コロナ危機以降の多様な格差の構造と変容を捉えるための家計パネルデータを構築するためのパネル調査の設計・実査を行う。具体的には、2004年から実施している「日本家計パネル調査(JHPS)」や、2019年から実施しているJHPSの調査協力者の子ども世代に対する「JHPS第二世代付帯調査」の質問項目を改良するとともに、合計で約6000世帯に対する調査を実施する。
さらに、これまでの家計パネル調査などの既存データとともに、本課題で実施したパネル調査データも活用して、コロナ危機前とコロナ危機直後で多様な格差の構造がどのように変容したか、また、その影響がどのように及んだかに着目しながら、各研究班の研究テーマに沿った経済格差研究を進める。その際には、班リーダー会議や調査票策定会議、国内・国際ワークショップなどを通じた連携を研究班間で強めていく。
加えて、King’s college、EHESS、オハイオ州立大学を始めとする世界各国の研究機関・パネルデータ構築機関との共同研究を進めることで、グローバルな視点からの研究も強化する。 -
2019年04月-2022年03月
文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費助成事業, 土居 丈朗, 基盤研究(B), 補助金, 研究代表者
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本研究の概要は,財政を規律付ける仕組みとして何が有効か,有効性を左右する政治的・社会経済的要因は何か,その程度はどれほどか,ということである.そのために本研究では日本の地方政府を題材に採る.日本では中央・地方政府とも公債残高が累増し,その政治的原因についても多く論じられてきたが,財政を規律付ける仕組みの効果や副作用について学術的に検討した研究はそれほど多くない.本研究では,説明責任や情報公開に関して地方公会計の整備,財政ルールの回避に関連して予算と決算の乖離に注目する.
本研究は、財政を規律付ける仕組みについて、日本の地方自治体を題材に計量分析等を行うことを目的に実施した。地方公会計改革における新たな財務諸表の作成が、市町村の支出面に与える影響を分析した結果、財務諸表の作成は、歳出総額に影響を与えないが扶助費にマイナスの影響を与えることが明らかになった。また、地方税である個人住民税が家計に与える影響について、日本家計パネル調査を用いてマイクロシミュレーション分析を行った。2010年代の一連の個人所得課税改革が世帯可処分所得に与えた影響を分析し、所得再分配効果はあったが小さいことが明らかとなった。この結果は、今後財政健全化に向け必要な税制改革に示唆を与える。
財政赤字が常態化し政府債務が累増しているわが国において、財政健全化に向けた効果的な取組について、次のような学術的意義と社会的意義があったと考えられる。学術的意義としては、2010年代までに実施された地方公会計改革の効果を適切な分析手法を用いて、国際的な査読誌に掲載される形でその効果を明らかにした。また、2010年代に実施された一連の所得税改革が、個人住民税等を通じて与えた所得再分配効果を、初めて明らかにした。これは、今後の財政健全化のために必要な税制改革を考える上で有益な示唆を与えるものとして、社会的に意義があると考えられる。 -
2018年04月-2021年03月
科学研究費助成事業, 井堀 利宏, 板谷 淳一, 吉川 洋, 小西 秀樹, 赤井 伸郎, 中川 真太郎, 土居 丈朗, 寺井 公子, 亀田 啓悟, 基盤研究(A), 未設定
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本研究では民間経済活動と両立可能で経済厚生を高める財政運営のあり方を中長期的視点で理論・実証分析した。とくに、財政健全化政策がもたらすマクロ、ミクロの政治経済効果にも留意しつつ、効率的で公平で持続可能な財政健全化戦略を考察した。具体的には、各国の政府財政における税、歳出、財政赤字などの財政指標をミクロ、マクロの両レベルで評価し、財政運営の政治経済効果や財政の持続可能性を定性的、定量的に検証することで、少子高齢化、グローバル化、財政赤字累増社会における望ましい財政健全化戦略を導出した。
我が国の財政状況は悪化している。しかも、単なる不況期の財政悪化にとどまらず、構造的に公債残高の累増が続いている。こうした我が国の危機的な財政状況を踏まえて、望ましい財政健全化戦略を分析することは、学術的に有意義であると共に、政策的な意義も大きい。特に、これから経済成長の低迷に直面しながら、増加する高齢者世代を支える若い世代や将来世代にとって、彼らの利害もきちんと考慮した研究とそれに基づく政策提言を考察するのは有益である。 -
長寿社会における世代間移転と経済格差: パネルデータによる政策評価分析
2017年04月-2022年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 樋口 美雄, 特別推進研究, 補助金, 研究分担者
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長寿社会と経済格差の関係に焦点を当て、「日本家計パネル調査(JHPS)」を継続した。JHPS回答者の子を対象とした「JHPS第二世代付帯調査(JHPS-G2)」も開始し、所得や資産、教育、健康における格差の世代間移転について、日本で新たな知見を得ることができた。さらに、コロナ流行を踏まえ「JHPSコロナ特別調査(JHPS-COVID19)」を緊急実施し、長寿社会、新しいテクノロジーの普及という社会的潮流のなか、コロナ危機での格差の動向について、いち早く検証することができた。
格差の拡大や固定化、社会の分断は、多くの先進国が直面しており、日本も例外ではない。本研究では一時点の格差の実態のみならず、親から子に引き継がれる格差の世代間移転について、独自のデータにより日本の状況を明らかにした。また、コロナ流行という全世界的ショックが、格差拡大にどういった影響を与えたのか、非接触の経済活動の普及といった新しいテクノロジーの台頭を背景に、実証分析のためのデータの整備と、コロナ初期段階やアフターコロナ下での影響について分析した。 -
2017年04月-2020年03月
文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 森田 朗, 基盤研究(B), 補助金, 研究分担者
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本研究は、まず、我が国の医療保険財政の脆弱性は否定できないこと、また、医療従事者の意識も変容しつつあり、医療供給の面でも必ずしも安定的とは言えないことから、財政危機時に対応可能な医療制度を構築する必要性が高いことを明らかにした。続いて、我が国が財政危機に落ちいった場合に、諸外国の経験が参考になりうることを示し、実質的な給付水準の切り下げについての規範的な考え方を検討することにより、単に持続可能な制度のあり方ではなく、財政危機等を見越した上で医療制度を改革する際の知見を提示した。
我が国において将来的に医療費の増加が見込まれる中、本研究の成果は、医療制度にかかる財政の脆弱性を明らかにし、財政危機時の政策的対応を示すもので、今後の医療政策のあり方に多くの示唆を与えるものである。とりわけ、2020年前半に起こった新型コロナウイルス感染症の流行によって、今後の医療の提供体制、医療保険制度は大きく変わることが予想されるが、本研究は、それ以前の医療制度を対象としているものの、本研究で得られた知見は、今後の医療制度、医療保険制度改革において、大いに役立つものと考えられる。 -
政府間財政関係の政治経済学的分析
2014年04月-2017年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 土居丈朗, 補助金, 研究代表者
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政府間財政関係を、共有資源問題として捉え、理論的分析と計量的分析を連携して行った。理論的分析では、地方政府がリスク回避的な場合には、複数の地方政府による群集行動が生じ、革新的な政策によって促されると期待される経済成長が実現しないことを明らかにした。計量的分析では、日本の市町村の政策決定に群集行動があることが、各種予防接種に対する市町村の助成を計量分析することで確認された。また、国税と地方税が同じ課税標準である点で共有資源と捉え、法人税改革の効果をシミュレーション分析したところ、法人税改革の全体の効果は労働所得を増やすが、地方税の外形標準課税の拡大の効果では労働所得を減らすことを明らかにした。
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法人税を中心とした租税の転嫁と帰着に関する動学的一般均衡分析
2007年04月-2010年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 土居丈朗, 補助金, 研究代表者
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本研究では、昨年度に引き続き、動学的一般均衡理論に基づきつつ、法人税や企業の資金調達手段の選択を明示的に取り入れたモデルを構築することによって、現在から将来にかけての異時点間の企業行動をより現実に近い形で描写した上で、法人税を中心とした租税の転嫁と帰着に関する動学的一般均衡分析を可能にした理論モデルの構築を基に、シミュレーション分析を行った。
この分析に基づく結果は次の通りである。法人税の負担は、短期的(1年目)には約50~80%が労働所得に帰着し、約20~50%が資本所得に帰着するが、時間が経つにつれて労働所得に帰着する割合が高まり、長期的には約95%が労働所得に帰着することが示された。この政策的含意は、我が国における法人税の負担は、相当多くの割合が労働所得に帰着していることである。
こうした分析に基づく政策提言として、次のようなものを導いた。日本の法人所得に対する実効税率は、近年低下して欧米並みになっているとはいえ、欧米諸国もさらにこれを引き下げる動きがあり、現在の水準のまま安穏としていられない状況である。特に、既にEU諸国では、付加価値税率を20%前後に保ちつつ、法人税率をより引き下げる方向での税制改革が進んでいる。高齢化とグローバル化に直面する我が国も、長期的にはその趨勢に従うべきである。 -
政治的実行可能性を考慮した税制改革の経済分析
2005年04月-2007年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 土居丈朗, 補助金, 研究代表者
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今後行われうる税制改革の経済効果を、近年の家計の消費・貯蓄行動や所得分布に即して理論的・実証的に分析し、その効果を効率性と公平性の両面から経済学的に評価することにより、税制改革のあり方について政策的含意を検討した。わが国では財政赤字が累増し、財政収支の改善が急務となっている。その中で、財政収支改善には、歳出削減も重要だが、財政支出の便益に見合う租税負担を求めるべく、今後の所得税と消費税を中心とした税制改革の具体策を検討した。また、本研究の最終段階の研究に関する討論を行うため、計量経済学会(Econometric Society)と、国際財政学会(International Institute of Public Finance)の年次大会に参加した。これらの学会に参加して、ヨーロッパ諸国の税制改革に関する知見を深めることができた。
本年度の分析により、次の点を明らかにした。今後の我が国の税制改革において必要なことは、増大する社会保障給付を賄うための安定的な財源確保と、現在から将来にかけての租税負担をできるだけ平年化して世代間負担の格差を是正することである。これをより具体的な政策提言に結びつけると、消費税の社会保障財源化、そして税制全体についての課税平準化政策の採択、が今後求められる。また、国と地方の税源配分についても、既に地方交付税分は地方の税源とみなせ、かつ2006年の税源移譲により、国税と地方税の配分は45:55となっており、これ以上地方に税源を配分する必要はないとの結論を得た。 -
経済制度の実証分析と設計
2000年04月-2006年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 藤原正寛, 補助金, 研究分担者
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1.中央から地方政府への補助金に伴うソフトな予算制約(SBC)を、両政府間で課税ベースが重複する2期間モデルを使って分析した。中央政府の国民厚生最大化行動を予想する地方政府は、予め行う過大な支出によって事後的な追加的補助金を引出そうとする。
ハードな予算制約とSBCのどちらが望ましいかは自明でないが、SBCが地方の過大支出と経済厚生負担をもたらす可能性が高いという理論的結果。SBCが過大支出をもたらし経済低迷に結びついた可能性や、地方政府が地方債を過剰発行した実態。政治経済学的背景として、90年代の民間経済活動の低迷が国の補助金獲得の金銭的便益を増加させ、それを巡る政治的圧力がSBCを増大させたなどの実証的結果を得た。
2.90年代に多発した問題解決の先送りを、関係者間のコスト負担交渉に要する時間として分析した。安定的な長期関係があれば関係者間の慣行が負担割合を決めるが、長期関係が崩壊すると新たな制度配置が確立するまで負担原則のフォーカル・ポイントが確立されず、先送りが起こることを消耗戦ゲームの進化動学を使って示した。この結果は、関係者数が増えまた交渉の透明性が低いほど高まるので、全員一致を前提し密室交渉の多い日本に整合的である。
3.見知らぬ人同士でも信頼関係を作り出すための仕組みを、中途解消可能な繰返しPDゲームをランダムにマッチしてプレイする進化動学で分析した。信頼破りの社会的制裁として、新たな相手を容易に見つけられない(失業)、新たな相手と何期か信頼形成投資をする必要があるという周知の仕組みに加えて、異なる信頼形成期間の慣行が社会で共存することが安定になり、ミスマッチによる損失が社会的制裁になる可能性を示した。 -
都市の再生と地方の自立のための経済理論研究
2000年04月-2002年03月文部科学省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 福島 隆司, 補助金, 研究分担者
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本研究は、成果としての論文等だけでなく、海外の国際学会に出席し論文を発表したり、台湾での研究発表・シンポジウムを行い、さらに年度末には、研究をまとめ、今後のさらなる発展を目指した、沖縄でのシンポジウムなどを行うことが出来た。
都市の再生は、今年から現内閣の重点政策の一つにも数えられ、様々な側面からも我々の問題意識が確認された年でもあった。これらの追い風をうけ、許されるならば将来にわたって、この研究組織を有効利用した研究を行っていきたい。 -
代議制民主主義における財政政策と政治過程の関係についての経済分析
1999年04月-2001年03月文部省・日本学術振興会, 科学研究費補助金(文部科学省・日本学術振興会), 土居丈朗, 補助金, 研究代表者
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民主主義の政治過程における財政政策を、財政赤字に焦点を当てて分析した。特に、学術雑誌Japan and the World Economyに掲載予定の"Japanese fiscal reform : Fiscal reconstruction and fiscal policy"では、わが国の財政赤字の累増が圧力団体によるただ乗りと過大な予算要求によってもたらされたことを、理論的・実証的に明らかにした。また、論文「裁量的財政政策の非効率性と財政赤字」では、1990年代の裁量的財政政策がもたらした、政治的な意図をもって様々な非効率性(政治的なコスト)が経済全体の中で、どのような源泉から、ないしはどのような理由で生じているかを議論した。その中で、裁量的財政政策の非効率性を抑制するには、財政規律を与える必要があるが、財政規律を与える直接的な方法は、安直に公債発行(財政赤字)ができないようにすることや、政策評価を適切に行うことを結論づけた。
さらに、前年度からの継続した研究として、研究課題に即してわが国の地方財政について分析した。学術雑誌『エコノミックス』に掲載された「地方交付税制度の問題点とその改革」などでは、わが国の地方財政制度には、地方公共団体が歳出削減努力や歳入増加をもたらす経済活性化策を打ち出す努力を政治的に怠るインセンティブが内包しており、これを除去して便益と費用(租税負担の増加)のリンクを認識させる財政制度に改める必要があることを言及した。この観点から、地方債の起債許可制度に関して分析した結果を、論文「地方債の起債許可制度に関する実証分析」(学術雑誌『社会科学研究』に掲載予定)にまとめた。